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第百五十二話  “ 一葉知秋 ” 10-12

昨日。
早めに着いた道の駅で。  自転車整備。
ブレーキワイヤー交換  ブレーキシュー前後交換  ハコブンダータイヤ交換

旅に出る前はこんなことが自分にできるとは思ってもいなかった(笑)

人は必要に迫られれば。  なんとかするものらしい。
きっとそうやって原始人から現代人へと進化したんだろう。

夜になり。  ガサガサと寝床を作る。

自転車日本一周      ~ サーフィンの旅 ~-PA120520.jpg

簡易シェルターと自転車&ハコブンダーごとテントのフライシートをかける。
すると。
忍法木の葉隠れの術♪



のように。
完全に周りから姿を消す事ができる。

姿を消す必要があるか?と言われれば。
その必要はあまりない…。
が。
風と寒さと雨を凌げる。

ところが。  この後。  この忍法で。  二人の人を驚かす事になってしまう。

自分が寝袋に収まり。  寝ようとしている時だった。
自分の近くに自転車が止まり。
そのすぐ近くで誰かがテントを張っている物音がする。
もちろんその人は。
3メートル横にまさか自分が寝ているとは思っていない。

忍法木の葉隠れの術は。  それほど周囲に溶け込んでいる。

その音を聞き。  もしやY君?
*このY君は北海道&京都&一昨日会った大阪のY君のこと。
と、思い。
シートをめくり。  顔を出した。
当然。
おぉぉっ!?
と、なり。  顔を見合わせ二人で笑った。
大阪のY君ではなかったがチャリダーさんだった。

静岡からのチャリダーのY君。



*翌朝撮影

彼が第一被害者だった。
その後お互いの旅話しに花を咲かせ就寝。

チュン♪チュン♪チュン♪  と、小鳥がさえずっていそうな朝6時。
夢と現実の間をさ迷っている時だった。
『やなっちさん!?やなっちさんですか?』と、そんな声が聞こえた気がした。
そして。
なぜかY君が『いや、違います。』と、その声の主と会話をしている。

その時ようやく目が覚め。  超低速回転ながら。
誰かが会いに来て下さったんだ。
と、理解した。

シートをめくり顔を出す。
すると。  やはり。  おぉぉぉっ!  と、なり。
悪気はなかったが、また誰かを驚かせてしまったようだ。
寝起きのむにゃむにゃ口調で。
『やなっちは自分で¨〆ヾ゛<』と言うと。
『あっ!何度かコメントさせてもらったブラッティーです!』と。



島根のサーファーブラッティーさん♪

『どーしても会いたくて!』と♪
出勤前の僅かな時間に自分を探して下さっていたようだ。
そして差し入れをたくさん持って来て下さった。
トラックドライバーのブラッティーさんに。
この先の道路事情について詳しく聞く事も出来た。

*ブラッティーさん!そこら中探して下さったようで!
差し入れまで頂きありがとうございました!

ブラッティーさんが持って来て下さった差し入れは。  Y君と半分ずつにした♪
そして昨日YOSHIKAZUさんから頂いたカステラを半分にちぎり。
朝ごはんに二人でカステラを大人食いした(笑)

独り占めより仲良く半分個♪  誰もが幼稚園で教えられた事だ。
独り占めすればたくさん食べれるが。  二人で半分個にすれば。
より美味しく、そして楽しく食べられる♪

波乗りも一緒だ。
みんなで波を分け合えば。  みんな笑顔でサーフィンできる♪

さて。
進む方向は一緒だが。  あまりにもスピードが違うので。
『また!』
と言ってY君と別れた。

それから2時間後。  通り過ぎようとしたコンビニに。  Y君のチャリが止まっていたので。
おっ♪と思い探してみると。
そこにはもう一人見慣れた姿が。



KENGO君だ(笑)

なぜか対談中の二人。
その光景に思わず大爆笑してしまった。

島根県の外れのコンビニに。  日本一周の旅人が三人(笑)
さぞかしコンビニの店員さんは気味悪かった事だろう。

KENGO君に今日の目的地を聞くと。  自分の目的地のひとつ手前の道の駅だった。
自分がペースを落とせばいいだけの事だ。
なので今日は自分もそこまでにする事にした。

追い抜いたり追い越されたりの展開だが。



次にまた必ず会える保障などない。  今を大事にしようと思った。

その後。  山口県に入り。



いくつもの峠とトンネルを越えた。

ふと。  目にした看板に。  下関まで120㎞と。
下関から九州に入れば。
福岡→佐賀→長崎→熊本→鹿児島…。

ちょっと気が早いが。  沖縄はもうすぐそこだ。
急に旅の終わりが近付いて来ている事を感じ。
無性に寂しくなった。
パスポートがあれば下関から韓国にでも行きたいくらいだ。

でも。
旅にはスタートがありゴールがある。
人生も人の命もそうであるように。  Endlessとは行かないのだ。

終わり無き旅に。  次の旅はない。
ゴールの先には。  新たなスタートラインがあるのだから。

ふぅ~。
しかしあれだなぁ~。
今からこの調子じゃぁ。  
沖縄のシーナサーフにゴールしたその時は。
確実に。  
泣くな(笑)



と、やけに綺麗な今日の夕日を見ながら。
太陽は今日のゴールに着いたんだなぁ~。
と。
そんな事を思ったりした。

ではまた!

 

第百五十三話  “ YAMATO-DAMASHII ” 10-13

昨夜は。
暗くなった頃に到着したKENGO君と一緒だった。



普段。  くだらない話しばかりしているが。
昨日は。
ちょっと真面目と言うか。  少しまともな話しをした。
それも旅の終わりの気配を感じたからだろうか。

朝。
夜、星がキラキラしていた分だけ。  肌寒い。
また普段通り。
くだらない話しをしながら。  それぞれ出発した。

次の街。  萩市に到着。
普段あまり観光はしないが。  ちょっと気になる場所がある。
波もなさそうなので。  今日は少し寄り道しようと思う。

萩の城下街に着くと。
大阪のチャリダーY君を発見。
観光で賑わう城下街を二人で走る。



その後。
今日はトラックや行き交う車を気にしながら。  国道を走る気にはならなかったので。
地元の方に道を聞きながら。  海沿いの道を進む事に。



ドキドキする位ワイルドな道。



でも景色は最高♪



日本海は本当に綺麗だ。
今まで。  実際見た事もないのに。
日本海のイメージは。  なんとな~く薄暗い感じだった。
が。
日本海は水も澄み渡り。
白い砂浜に松が生い茂る。



絵画のような風景が、至る所にある。
百聞は一見にしかずだ。

ところで。  
自分が今日。  本当に立ち寄りたかったのは。  萩の城下街ではない。
実はその前に。  と、ある場所へ行っていた。

幕末維新胎動の地

立ち寄った松陰神社の石碑にそう書かれていた。
松下村塾。





幕末維新の原動力が産声をあげた場所。
吉田松陰の銅像。
萩の街を見下ろす丘の上に立っていた。



海を見据えたその目には。
今、何が映っているのだろうか。



昔。  幼なじみから進められた一冊の本。
司馬遼太郎さんの竜馬がゆく。

あの本を読んだ時。  自分もこう在りたい。  と思った。
そして。
(諸説あるとはおもいますが。)
自分が龍馬さんと誕生日が同じと知った時。  なんだかすごく嬉しかった。

この人のように成りたい!
それは別に。  世の中を変えるとか。  歴史に名を残す人になるとかではない。
男として生まれたからには。  何かを成し遂げたい。
そんな漠然たる思いだ。

龍馬さんは。  あの時代にして。  日本全体を見ていた。  ひとつの国として。  

もしかしたら。  これから書くことは。  問題発言かもしれない。
でも。
そんな風に感じた自分の気持ちに素直になろうと思う。

サーフィンには。  ローカルさんとビジターさんの問題が必ずある。
が。
この国で。  同じ趣味を持つ者同士。
皆、日本と言う国のローカルではないだろうか。

なぜ。
同じ仲間同士がいがみ合うのか。

すべての人が。  日本のサーフポイントを愛し。
日本と言う国全体でサーフィンの文化を育めば。
今あるたくさんの問題は解決されるのではないだろうか。

そしてその力がひとつの方向に向けば。
たくさんの環境問題も…。
なんて…
生意気言ってすみません…。

銅像のほとりにひっそりと。
しかしながら厳かに佇んでいたお墓。



吉田松陰  高杉晋作  久坂玄瑞
今の自分と同じ世代の人達が。  我が身を投げうって世の中を変えようとしていた時代。
なんだか、その墓前にたった時に。
ふと。
そんなことが頭に過ぎったりしたもので…

これは吉田松陰辞世の句。

“身はたとひ 武蔵の野辺に 朽ちぬとも 留め置かまし  大和魂”

日本のローカルとして。
いや。
地球のローカルサーファーとして。
自分にも。  小さな事でも。  何か出来る事がきっと。  
きっとある。
たくさんのものを与えてくれるサーフィンに出来る恩返しが。

そう思った。

*ローカリズムやビジター問題を否定するものでも肯定するものでもありませんので、その点をご理解頂ければと思います。

ではまた!

 

第百五十四話  “ 一対一 ” 10-14

と、ある場所で。  見かけた一枚の写真。
島に架かる綺麗な長い橋。
その写真に目を奪われた。
なぜか?

その写真の隅っこにサーファーさんらしき姿が映っていたからだ。
地図を広げる。  長い橋を探す。
あった!
きっとここだ!
その感だけを頼りに走り出した。

山口県に入ってから。  まだ波乗りをしていない。
もちろん。  いつでも波乗りが出来るなどとは思っていないが。
本州最後のこの土地で。  どうしても波乗りをしたかった。

しかし。  昨日見た海は。  透き通る青いグラデーションの。  綺麗な凪の海だった。

途中。
海沿いに出た時に。  湾内にうっすらと見えるうねりに。  心を躍らせた。
もしかしたら♪
と。
下関も近い。
多分、山口県で波乗りするチャンスは今日だけだろう。
普段なら。

ひぃぃぃ~!  と、言いながら登る峠も。



今日は。  うぉぉぉ!  と登った。

お昼前。  国道を逸れ。  その橋が架かる島の方へ向かった。
木々の間から見える海には白波さえ見えない。
それに。
波がある時にサーフポイントに近付くと。  必ずサーファーさんの車に出会うのだが。
今日はそれさえも無い。

…あぁ今日はダメかな…。  と、思いつつも。  橋を目指す。
ちらっとその橋が見えて来た。



そして。  その手前に。  スープが見える!

ドキドキ♪
バクバク♪
高鳴る鼓動を感じつつ。  全速力で橋へ向かう。

橋に到着。
橋の下の白い砂浜のビーチには。



確かに波が割れている。
しかし。  ここからでは良く見えない…。
ちらっと上を見ると。  展望台が♪



階段を三段飛ばしで駆け上がる。
そして目にした光景に息を飲んだ。  誰もいないビーチに。
波がブレイクしている。



ハッ!  まぁ待て。  と。
今にも走り出しそうな自分の気持ちを落ち着かせる。
サーファーさんがいれば。  エントリーの場所や危険な箇所を聞く事も出来る。
が。
誰もいない。

まずはどうやってビーチに下りるかが問題だ。
じっくり回りを見渡すと。  ビーチの端に獣道がある。
その道をたどって行くと。  駐車スペースを発見。
一旦引き返えし。  さっき確認した場所に。  繋がるであろう道に入って行く。

ビンゴ♪

それからじっくり観察。
手前に一カ所岩があるが。  後は問題なさそうだ。

着替えを一瞬で済ませ。  ビーチへ向かう。
『いただきます!』



パドルアウトしてみると。
ビーチから見た時はひざ~もも位かな?
と思ったが。  たまに腰~腹近い波も来る。

橋の支柱の4本目の辺りにセットが入ると。  3本目位の場所でブレイクする。
他の場所でも波は割れているが。
ビーチの右側のレギュラーが♪  風は弱~いオンからサイドオン。
面にあまり影響はない。

それから2時間。  ずっと一人だった。
こんな経験はこの旅始まって以来だ。

セットを待っている間。  高知で出会ったきぃちゃんさんを思い出した。
自分に。  海に入る前の挨拶のしかたを教えて下さった方だ。

誰もいない海に一人で入っていると。
サーフィンは誰かに見せる為のものでは無い。  と、気付く。
そこには。
サーフィンの上手い下手などは存在しない。
ましてや。
競い合うものでも無ければ。  奪い合うものでもない。

そこに在るのは。
向かい合う波との。  一対一の真剣勝負であり。
自然のもたらす恵みを享受している事を実感できる瞬間だ。
と、きぃちゃんさんは言っていた。
だから海に入る時は。  自然の恵みに感謝して。
『いただきます。』
海から上がる時は。
『ごちそうさまでした。』
と。
俺はそう言ってるんだ♪と教えて下さった。

今日は。 その言葉を。  ほんの少しだけ。  理解できたような気がした。



さて。
海からあがり。  走り出した直後。  山口県で初めてサーファーさんと出会った♪
『やなっちさん??』
と、車を停めて出て来て下さった方は。
以前にコメントを下さっていたKさん♪

良く焼けていると思ったら。  ハワイ帰りらしい♪
今日はハワイから戻り最初のサーフィン。
波チェックに向かう途中に。  自分がフラフラしながら坂を登っていたようだ。

そんなわけでパシャ♪



っと一枚。
*Kさん!声をかけて応援してくだりありがとうございました!

そこからだいぶ走り。  道の駅も無いので。  ちょっとした公園に。
全く人気がなく。
ここ数日はKENGO君やチャリダーのY君と一緒になる事が多かったから。
今日はなんだか心細い。
遠くから聞こえる犬の鳴き声が。  近いて来ているような気がして怖い…(笑)

そんなわけで。  よい子はもう。  寝ます♪

ではまた!

 

第百五十五話  “ タヌキ寝入り ” 10-15

昨晩。
ルート上に道の駅が無いので。  山の麓にある公園に日没ギリギリ滑り込んだ。

回りには何も無い。
街灯も無く。  あるのは自動販売機のみ。
しかしながら。  公園は立派なもので。
閉館していて中には入れなかったが。
(たぶん)管理事務所や売店等を兼ね備えた施設に。
広い敷地内には。  コスモスが咲き乱れ。   休日ともなれば大勢の人で込み合うようだ。

そんな公園の入門ゲート脇にある屋根付きベンチが今日の寝床だ。

19時頃だっただろうか。
ベンチに腰掛け。   日記を書いていると。
道端に停めた車から降りて来た人に。   突然、懐中電灯で顔を照らされた。

ちょうど。   この日の夕方。 
スピード違反の取り締まりに捕まる訳もない速度だが。



検問中のお巡りさんに捕まった(笑)

『いいなぁ~俺も時間があったらやりたいよ(笑)』
とか。
『これはすごいなぁ(笑)』
と、ハコブンダーに興味津々なお巡りさんもいた。
結局。
あれこれ立ち話しをしただけで解放された。

検問所から出発しようと自転車にまたがった時。
『最近はこの辺りも物騒だから、気をつけてな!』と。
そんな事があったので。
また。   警察?職務質問?と思ったら。
公園を管理する警備会社のおじさんだった。

『旅してるのか?どっから来た?』
『~かくかくしかじか~です。』
『そうか。何でもやるなら若い内だなぁ~』と。

それからしばらくおじさんと話しをしていた。
『夜中にもう一度見回りに来るけど、まぁ大丈夫だとは思うけど気をつけてな!』と。
そうして警備員のおじさんは見回りを終え帰って行った。

21時過ぎだっただろうか。
日記を書き終えた後。  いつものように。  寝床を作る。

先日。
二人を驚かせてしまった、忍法木の葉隠れの術だ♪
自転車とハコブンダー、簡易シェルター事シートを被せる。

*参考画像


これで少々の雨と風と寒さを凌げる。

ガサガサとシートの下に潜り込み。  寝袋にすっぽり収まった。
それから数時間後。
この忍術が。
とんでもない事態を引き起こす事になるとは。  これっぽっちも思ってもいなかった。

久しぶりに人気の全くない場所での野宿。
車さえも通らない。  ちょっと怖い…(笑)
遠くから聞こえる犬の遠吠えが。
だんだん近づいて来ているような錯覚に襲われる。

たまに吹く北よりの風に。  落ち葉がもてあそばれて。
ガサガサ♪
ガサガサッ♪
と。

その度に野良犬でも来たらどうしよう…。  と、いつに無く弱気…。
あぁ!!もうっ!早く寝よう!
寝てしまえばそんな臆病風も関係ない。

ぎゅぅ~っ♪と瞼を閉じる。
………数分後。  ワンワン♪ワォォ~ん♪   …。 ぱっちり♪

寝れない。

こんな時に限って眠れない。
普段ならとっくに爆睡している時間だ。

しかし。
そんな事を何度か繰り返している内に。  いつの間にか寝ていたらしい。
これが事件発生の4時間程前の出来事だ。

朝4時頃。
ダッダッダッダッ!!
数人の勢い良く走る足音で目が覚めた。

なになに!?何事?
シートの下の寝床の中に緊張が走る。
様子を伺う。

『現場到着しました!』
どこかの誰かと無線でやり取りしている。
さらに。
後から到着した車から複数の人が駆け付けてくる。
回りに散って周囲を固めろ!!
みたいな専門用語が飛び交う。

えっ?  包囲?  完全包囲?
もう何がなんだかわからない。
完全に周囲から気配を消しているこのシートの下で。
じっと。
息を潜めるしかなかった。

『侵入経路確認しました!ガラスが割られてます!』
『まだ中にいそうか!?』
『わかりません!ただ出口は塞ぎました!』

だんだん状況が読めて来た。
どうやら。
公園の管理事務所に泥棒が入ったようだ。
きっと警報機が作動して警察が駆け付けて来たんだろう。

『中にはもういなそうです!』
『じゃあ数人待機で他は周囲を確認!』
『ところで!誰かここまで来る間に車かバイクにすれ違ったか?』
すでに10人位になっている警察官。
『いえ!すれ違ってません。』
『じゃあ自転車だな!その辺りに自転車かくして隠れてるかも知れないから周辺捜索!』

状況を理解してホッとしたのもつかの間。  自分の置かれた状況を良く考えてみた。

…。  ヤバい…。  ヤバ過ぎる。  この状況下で。  ・・・自分は。

超不審人物!!!

犯人が侵入しようとガラスを割った場所から数メートル。
そこに犯人が移動手段に使用したと思われる自転車と一緒にシートを被って寝ている自分。

あぁぁ…終わった。

どうせすぐに見つかり。  警察署へ連行。
苛酷な取り調べに耐え切れず。  かつ丼の誘惑に負け。
嘘の自白をし…。

あぁぁ…。
これで日本一周サーフィンの旅も…終わった…
そんな事が頭をぐるぐると。
しかし。
本当の試練はここからだった。
どういう訳か。
大捜索網が敷かれる中。
現場の目と鼻の先で寝ている自分に誰も気付かない。

じっと発見されるのを待ち。
何事もなかったように寝ていた振りをしよう。
と、決めてから数十分。  ・・・ 一向に発見される気配がない。

迷った。
ガサガサっ♪と。
たった今起きたかのように。  シートの下からおもむろに這い出して。
『何かあったんですか?』と聞いて見ようか?
いやいや。
それは余りにも白々し過ぎる。
やはり。
寝ていた事にして発見された時に起きた事にしよう。
その方が自然だ。

てか。
なんでやってもいない犯罪に対してこんなに言い訳じみた事ばかり考えてるんだ?
これじゃあ。
まるで本当の犯人のようじゃないか…。

現場には鑑識チームも到着したようだ。
周辺の捜索は終息モード。
こうなると。
完全にシートの下から這い出すタイミングは無い。
開き直った自分は完全にタヌキ寝入りを決め込んだ。

タヌキ寝入り。  ・・・久々だ。

まだ自分が相当若かった頃。
夏休みの間、伊豆のリゾート地にバイトに行った友人を訪ねた時だった。
遊びに行く事はその友人には内緒だ。
しばらく彼に会っていない友人の彼女を連れて。
ちょっとしたサプライズ的感覚で♪  サーフトリップがてら遊びに行く事にした。

突然、友人のバイト先の海の家に顔を出すと。
脚本通りのリアクションで自分達を喜ばせてくれた。
そして。
その日の夕方だった。
友人のバイトが終わるまでの間。
バイト期間中滞在している寮にお邪魔して。  まったりとした時間を過ごしていた。

その時。
彼の彼女が。
と、あるものを部屋から発見した事により。
楽しい夏のサーフトリップが悪夢へと変わった。

部屋に指輪が転がっていたのだ。   女性物の…。

友人が帰るのを待つ間。
彼の彼女になんと声をかけていいものか…。
重たい空気がその場を包んだ。

いつしか。
早朝からの車の運転と夏の暑さそしてサーフィンでクタクタになった自分はウトウトとし始めていた。
しかしまだ完全には寝ていなかった。

そんな時にバイトを終え帰って来た友人。
それに気付きはしたが、この状況下だ。
浮気の決定的証拠とも言える指輪という物証を手にした彼女。
そんな状況とは何も知らずに笑顔で帰って来た友人。

シュラバ。

そう。
当然そこは。  修羅場になった。

うつらうつらとしていた目はぱっちり♪
しかし起き上がる事も出来ず。  横に体を伏せたまま。  タヌキ寝入りを…

その時以来だ。
しかも今回の状況は以前にも増して深刻だ。
ちなみに。
その指輪は友人がビーチで拾った物と判明し。
それから10年後。  一昨年の秋。  二人はめでたく結婚した♪

さて。
身動き一つとれない中。
自分が寝ている真後ろのベンチに腰をかけて話しをしている警察官。

残酷な構図だ。
やってもいない犯罪のせいで有り得ない状況に置かれ。
犯人以上に切迫した心理状態が一時間近く続いている。

そんな時だった。
一人の人の発言により。
全警察官の注目がベンチの横のシートに集まった。

『昨日からおる子がそこで寝てるで。』と。

警察官が手に持つライトが一斉にこちらに向いた。

きっ!来たぁぁ!  ついにその時が来た。
待ちに待った?その時が。
『すいませ~ん、警察です、ちょっといいですか?』
この一言により。
長い間閉ざされていたシートがめくられた。
しかし開放の喜びに浸るのはまだ早い。
不審極まりない人物の自分は。  この状況を説明仕切れるだろうか。

いや。
タヌキ寝入りをした以外。  やましい事は何もない。
堂々としようではないか。
そう思い。
しっかりと。  刑事さんの目を見て。  はきはきと質問に答えた。

しかし。
予想外に疑いを掛けられている感がない。
ふと、警察官の中に混じっていた顔に目が止まる。
『あっ!おじさん!』とは、さっき会った警備員なおじさんだ。
どうやら。
事件発生で現場に呼ばれたようだ。
そして警察官に自分の事を話したようだ。

『彼はそこにずっといたから、もしかして何か物音でも聞いたかもしれないですよ。』と。
刑事さんや警察官の方も。
まさかここに自分が寝ていたとは思ってもいなかったようだ。

プロの目でさえ気付かない木の葉隠れの術って…。

たぶん普通のテントを張っていればこんな状況にはならなかった。
でも。
もしかしたら。
普通のテントだったら犯人にバレバレで。  思わぬ危害を加えられていたかもしれないし…。
結局よかったのか悪かったのか…。  それはわからないままだ。

免許証をみせ。
鑑識の方に靴の裏を見せると完全に容疑は晴れたようだ。
『ガラスの割れる音とか聞かなかった?』と聞かれたが。
全く記憶にない。
その後に鳴り響いたらしい警報機の音にさえ気づいていない。

結局。
なぜか和やかムードのまま身柄を開放された。

警察の方が帰った後。  警備員のおじさんとまた話し込んだ。



出発するにはまだ暗すぎる。
明るくなるまであれこれ話した。

毎年。
コスモス祭りが終わると。  泥棒が入るらしい。

だいぶ明るくなり。  おじさんにお礼を言い。  出発した。
すぐにおじさんは後ろから車で追い抜いていったが。
自分の前をゆっくりゆっくり走ってくれた。



国道に出るまで先導してくれるようだ。
なんだか。
そのちょっとした優しさがすごく嬉しかった。

最後の分かれ道に差し掛かると。
車から降りて待っていてくれるおじさん。



『まぁもう一生会わんだろうが、元気でな!』と。
そう言って見送ってくれた。

自分は。
『おじさんありがとう!またね!』と言って日が登り出した道を南に下り。
下関を目指して行った。

今朝はそんな朝だった。

ではまた!

 

第百五十六話  “ 洗心 ” 10-16

下関から九州に渡るには。  いくつかのルートがある。  らしい。
が。
関門トンネルの人道を渡るルート。
これがチャリダーの一般的なルートだ。
当然、自分もそのルートで九州に入ろうと考えていた。
だって海の下に掘られたトンネルを歩けるなんて。

ワクワクする♪

しかし。
そのルートに黄色信号が灯ったのは数日前だ。
旅人はお互いに情報を共有しあう。
一番最初にその事を教えてくれたのは。  KENGO君だった。
途中で出会った旅人に聞いたらしい。

関門トンネル全面工事!!



詳しい情報はわからなかったが、すこしやっかいそうだ。

下関に近付くにつれ。  情報が濃くなって来た。
どうやら。
工事はして全面通行止めらしいが。  
とりあえず自転車や歩きでも。  九州には行けるようだ。

が、その方法がちょっと嫌だ…。
自転車を輸送トラックに乗せ。  自分はバスに乗って橋を渡るらしい。
くだらないこだわりだが。
これから先に進む道ではピックアップもヒッチハイクもしたくない。

地図を広げ思案する。    フェリーがあるようだ。

今までもそうだったように。  やはり海を渡るならフェリーにしよう。
と、そう決めた。

関門海峡フェリーの乗り場に向かう。
料金はたったの300円だった♪
出発の時を待つ。
フェリーに乗る時はいつも不思議な気持ちになる。
そこまで来た道のりとこれから先の新しい土地にドキドキする。
すごく旅情を掻き立てられる。   だからフェリーが大好きだ。

待合室にフェリー到着のアナウンスが流れる。
到着したフェリーから出てくる車を見送り。



フェリーに乗り込む。
自転車を預けたらすぐにデッキに駆け上がる。
いよいよ出港だ。
本州がだんだん離れて行く。



毎回だが。  この瞬間。   色んな思いが込み上げる。。
日本海側もいろいろ楽しかったなぁ~。
青森の大間から日本海にでて、それから…

~ピンポンパンポン♪   間もなくフェリーは小倉港に到着します♪~

えっ!?   早っ!   たった10分位の船旅だった(笑)
感慨深さに浸る間もなく。
あっさり九州に上陸してしまった。

そしてここから。   都会嫌いな自分は。   どんどん鬱になって行く。
踏切を渡る為だけにそこら中を走り回り。



やっと見つけた迂回用地下道には降りられず。
わかりづらい看板標記に迷いに迷い。
堂々と歩道に停めた車に行く手を遮られ。



自転車とすれ違う時、邪魔かな~?と思い端によけて待っていれば、なぜかその人に睨まれて。
横断歩道を渡ろうてすれば左折車の人にも睨まれる。
はぁ~。

わかっている。
そんな風に思ってはいけないと。   それはわかっているが。   都会を走る度に辛くなる。
当然、笑顔も無くなり。   ため息ばかりで胃が痛みだす。
昨夜の寝不足もあり。
晴れているにも関わらず。   宿を探しひきこもる。
19時頃には寝入ってしまったようだ。

そして今朝。
宿のおばちゃんに挨拶をして出発。
途中で出会ったサーファーさんがポイントへの行き方を教えてくださった。


*Tさんありがとうございました!

ポイントに到着すると。   たくさんのサーファーさんで賑わっている。
しかし。
どこか昨日のテンションを引きずったままの自分は。   どーしても海に入る気がしなかった。
それはポイントの雰囲気がどうとか。   波がどうとか。   そんな問題ではないのだ。
自分の心の問題だ。
自分の心次第で。    どんな状況も、"いい波"にすることができる反面。
"ワルい波"にもしてしまう。
そのポイントで波乗りを楽しむサーファーさんを見ながら。
今日の自分には、この波は与えられていない。
そう感じていた。

とても笑顔で波乗りできる自信がなかった。
気持ちの切り替えの早さは特技の一つだが。
こんな日もたまにある。

声をかけて下さったサーファーさんに挨拶をして先に進む。
海の見えるベンチに腰掛け。
ずっと波を眺めていた。



なんだかちっぽけな事にいつまでも心を捕われている自分に気付き。   馬鹿馬鹿しくなった。

ここまで旅をしてきて。   自分はいったい何を感じ気付いたのか。
都会がどうとかこうとか。    そんな事をまだ言っている。
自分が嫌だと思えば。    どんな事もそういう方向に動き始める。
悪口を言う人が周りから悪口を言われているように。
思いやりの無い人には親切が巡って来ないように。
自分が心に壁を作ってしまえば。    かえってその防ごうとした何かは。
壁の中に閉じ込められ。    心の中はその事に満たされてしまう。

そして。
悪循環が始まる。
そんな時は。
心を洗わなければならない。
座禅を組み。    波の音を聞き。   心静かに。


…。

サーフィンは。    波に自分の波長を合わせなければならない。
自分の心が乱れている時は。    波と波長が合わなくなる。
そんな時に波乗りをすれば。   波に対する。    自然の恵に対する。    感謝の念は生まれない。

そこには。
単なる自己満足のサーフィンがあるだけだ。
サーフィンは技術や道具でするものではない。
心でするものだ。    と、改めて思い。
サーフィンをする為には心の在り方が大切なんだと。
そう思った。

夕方。


道の駅に着き。
ぐんぐん下がって行く気温に洋服を着込む。
なんとなく。    九州は暖かいイメージだったが。

寒い…。

ヒートテックという名のももひきをはき。    暖をとる。
そんな時だった。
どこか見覚えのある姿が。

大阪のY君ことYAHEI君だ♪

そして途中で出会ったと言うMANABU君。

今日は一人かと思っていたので突然の再会&新たな出会いがやけに嬉しかった。
冷たい風が吹き付ける夜の道の駅で。
くだらない笑い話が。    寒さを少し和らげてくれた。

結局。
モヤモヤした気分は出会いが忘れさせてくれた。

今日はそんな一日だった。

ではまた!

 

第百五十七話  “ 遊び心を ” 10-17

日に日に。
寒さを増していく今の時期。
日中と夜や朝方の気温差が激しい。
昼間は半袖一枚なのに。
昨夜はダウンを着て寝る事になった。

三人で熱く語っていたのは。
残された日本一周の手段についてだ(笑)

・徒歩  ・自転車 ・竹馬 ・一輪車 ・リアカー ・スケボー ・人力車 ・三輪車 
・シーカヤック ・マラソン ・着ぐるみを来て徒歩

全て前例がある。  らしい。
中には。
達成したかはわからないが。
馬に乗り日本一周に出たつわものもいるらしい。

自分が旅に出るまで。
日本にこんなにも旅人が溢れているとは知らなかったし。
日本一周と言っても色んな手段や方法、目的がある。
そして。
こんな時期に。  旅人が三人鉢合わせる不思議さ。

MANABU君という新たな力が加わったおかげで。

楽しい時を過ごし。
心のモヤモヤもいつしか無くなっていた。

朝。
三人でガタガタ振るえながら寒い!寒い!と笑っていた。

*まだ10月なのに大袈裟だよ(笑)と思っている方もいるかも知れませんが…。

日が登ると。  徐々に徐々に。  体が解凍されて行く。

太陽の存在の大きさに気付く。

出発だ。
今日は。  大都会。  福岡を越えなくてはならない。
また。  はぁ~。  とはなりたくないので。
出発前に。  こう思う事にした。

福岡巨大迷路アドベンチャー♪
と(笑)
なんでも楽しまなければ自分が損するだけだ。

そう思ったら。


ビルが乱立する都会に近付くほどワクワクしてきた。



入場ゲートを通過。

街の中にいるたくさんの人達も。
福岡巨大迷路アドベンチャーの中でさ迷う人達だと思えば。
人の目も気にならなかった。

途中。
天にそびえるようなバベルの塔や。


コロッセウムがあった。

凄い人だ。
今日この円形闘技場でグラディエーター達の死闘が繰り広げられるようだ。

巨大迷路を脱出したのは午後2時頃だっただろうか。
次の街で食料を買い込み。
半島の付け根辺りのサイクルターミナルで今日は留まる事にした。

夕方。
雲一つ無い空が染まって行く。
なぜか目にする機会が増えた椰子の木。
沈む夕日を見ながら。

また少し。
沖縄を近くに感じた。



ではまた!

 

第百五十八話  “ 蘇るハングリー ” 10-18

半島の付け根で一夜を明かした。
昨夜は冷え込みもあまりなかった。
もしかしたら。
昨日、古着屋さんで買ったフリースのおかげかもしれない。
起きた時、体は寝袋を飛び出していた。

さて。
糸島半島を行く。
どこかHawaiiチックな街並。  サーフショップも軒を連ねている。
が、早過ぎた…。
まだどこも開いていなかった。

波も…。


そればかりは仕方ない。
福岡での波乗りはお預けだ。
先日、波乗りの機会を自ら逸してしまったのだから。

とは言え。  こうも思う。
見えない境界線にこだわる必要もあまり無いか。
と。
町境 市境 県境 国境。
人間が勝手に引いたラインなのだから。
その見えない境界線の為に争い事まで起きる。
悲しい事だ。

さて。
糸島半島を抜け国道に出ると。
あっ!  となった。

*この中にKENGO君がいます。さてどこでしょう!(笑)

自分の方が先に九州に入ったのに。
多少のルートの違いはあれど。
いつの間にか追い越されていたようだ。

さて。


唐津城を眺めながら針路を北へ。

目指すは。
立神P!  では無く。
Presence Surfboardさん。
京都の八丁浜、守源さんに教えて頂いたサーフショップさんだ。
『そこにゼンちゃんがいるから!』と。

夕方。  立神Pを一旦スルーし。
Presenceさんへ♪

恐ろしく急な坂道を上がると。


スケボーのパークを備えたショップが。

お店を訪ねてみる。
が、誰もいない…。
奥の方の建物から。  何かを削るような音がする。  ちょっと覗いてみる。
ファクトリーだ。
さらに奥の部屋から音がする。
『こんにちは!!』と大きな声で言って見る。
すると。
カチャっと。  奥の戸が開いた。


ん?誰だっけ?と言う表情も仕方ない。
いつもの事ながら。  アポ無しで突然行くのだから…。

『明日だったら福岡に行ってていなかったよ~!で、源ちゃん元気だった!?』と。

お二人はゼンちゃん源ちゃんの間柄のようだ♪

海を見下ろす高台からこの辺りのPについて教えて下さった。
冬になれば色んなリーフで波乗りが出来るとも教えて下さった。
そして。

『明日サーフィン出来るといいね~』と。
*突然お伺いしたにも関わらずステッカーまで頂きありがとうございました!

さて。
今日の寝床は。  立神Pのすぐ手前の道の駅のような施設にした。
そして。  また今日も。  旅人が集った。

KENGO君とYAHEI君(笑)

それぞれとは何度も一緒に野宿しているが。
三人まとめては初♪
この三人はなぜかペースが一緒だ。
また三人で出会う機会もあるかもしれない。

それぞれテントを張る。


そういえば。  今日一人用のテントを買った。
北海道で使用していた巨大テントは。  新潟辺りで軽量化の為に送り返した。

まぁなんとかなるでしょう!  と、些か軽率だった。
やっぱり寒い。
たまたま立ち寄ったホームセンターで。
売場の奥の奥の方で忘れ去られたかのように置いてあったソロテント。
安い♪
寒さに負けて宿を探す事を考えれば。
なんだか。  お値段以上の買い物をすることが出来た気がする。

実は。
まぁ実はと言うほどでもないが。
北海道を出るまでは相当ハングリーだったが。  最近、どうもハングリー精神が無くなっていた。
その野生児魂に再び火をつけたのは。
YAHEI君だった(笑)
彼のとてもワイルドなチャリダーっぷりに。  忘れていた何かを思い出した。

ここから先。  九州を南下しだせば。
長崎→熊本→鹿児島。
サーフィン♪サーフィン♪とは行かなくなる気がする。
そうなると。  ただただ走るだけではつまらない。
ちょっと色んな所に寄り道して行こう♪
と。
そんな悪巧みを最近考えている。

なのでここ数日は。  地図とにらめっこばかりしている(笑)

旅での出会いは。  自分にたくさんの事を教えてくれる。
そんな旅を。  ほんのちょっとでも長く続けていたい。

早く寝なさい!
と、言われながらもしぶとくテレビを見ていた子供の頃のように。

ではまた!

 

第百五十九話  “ 旅の最後の悪あがき計画♪ ” 10-19

朝6時に目が覚めた。

不安がよぎる。   風が無い。   朝凪?

昨晩散々吹き荒れていた風がすっかり止んでいる。
波…。
果たして今日。  ここで波乗りは出来るだろうか。

冷静を装いながらテントをたたむものの。  焦ってうまく行かない。
そんな時に追い打ちをかけるように。
ハコブンダーパンク…。

そうこうしている内にKENGO君は出発。
何とか荷物をまとめ。
YAHEI君に、また!と言って出発。

立神P。
そこには九州サーフィン発祥の地と書かれていた。
ドキドキしながら海を見に行く。
海に近付くと。
波の音が聞こえて来た。

昔。

まだ波情報などなかった頃。
新聞の天気図とNHKの天気予報~明日の風と波~が頼りだった。
とは言え。
あまり理解もしていなく。  とりあえず行って見よう!  と、海へ向かうのだ。

まだ日も昇らない内に海に着き。
真っ暗な松林を歩いて海へ向かう。
海が近付くに連れ。
ドドドド~ッ♪と波の音が聞こえて来た瞬間。

おっ♪  と、きびすを返し。  全力疾走で車に戻り。  着替えを済ませ海へ行く。
ビーチで明るくなるのをじっと待ち。  東の空がほんのりと明るくなり。
うっすらと見え出した波にパドルアウトした。

そんな昔の事を思い出しながら。  海を見ると。

波がある!


一人のサーファーさんがすでに海に入っている。


少し大人になったからか。
小走りで自転車のもとへ戻り。  すぐさま着替えた。

立神岩に一礼し。

いただきます♪と。

海にいたサーファーさんに。  おじゃまします♪
笑顔が帰ってきた。
そして一本目の波。  あっ♪と思った。
立神Pの波は北海道のあるPの波に似ていた。

唐津で乗らせて頂いた波で北海道を思い出した。
なんだか不思議な気分になった。
ビーチ・河口・玉石・リーフ・コーラルリーフ。
すね~頭オーバーまで。

この旅に出て。  たくさんの波に乗らせて頂いた。
旅で出会った人達と同じように。
すべての波が思い出と共に体に刻まれているのだろうか。

ごちそうさまでした!  と、海から上がると。
一人のサーファーさんが声をかけて下さった。

ロングボードのYAMAGUCHIプロ♪

メローな雰囲気のとても気さくな方だった。
*声をかけて下さりありがとうございました!

そして。
ワン!と。  立神Pの番犬だろうか。
あぁお前か。

…。

えっ!誰だっけ?

とでも思っていたのだろうか?(笑)
*立神Pの皆さん!楽しい波乗りをさせていただきありがとうございました!

出発直後。
車で追いかけて来て下さったSさん♪

ニコニコと笑顔の絶えない方だった。
*応援して下さりありがとうございました!

そして夕方。  ある島に渡ろうと。

長い橋を渡っていると。
自分を抜き去り際に。
ベンツのオープンカーのジェントルマンが…。
『やっと見つけた!!』と。
えっ?えっ!なに?えっ?  いったい…どなた…。
と、当然そうなる。

『あっちで待ってる!』と、おっしゃったかどうかは定かではないが。

その方は。  びゅぅ~ん!と  橋を渡った先のパーキングで。
手をこまねいて待っている。

ペコリと頭を下げ『こんにちは』と。
すると。
『ずっとブログ見てるよ!今朝からずっと探してたんだ(笑)』とNさん。

今はやっていないそうだが。
九州のサーフィン創成期に波乗りをしていたと言う。
そんなNさんが。  チャリとハコブンダーを見ながら。
『俺もまたサーフィンしようかな~(笑)』と。
静かに微笑んでいたのがとても印象的だった。

*驚きましたがお会い出来てよかったです!差し入れたくさんありがとうございました!

そういえば。
橋を渡った先は長崎県だった。
旅もいよいよ…だ。
なので。。  旅の最後の悪あがきをしようと思う。

~自転車日本一周波乗旅的西方島波見聞録~

長っ(笑)
でも、なんだか。  すごくワクワクする♪
色んな島に渡って。
もしかしたら。  そこにある"かも"知れない波や。
島に住んでいる"かも"知れないサーファーさんとの出会いを。  求め、探して見ようと。

このまま鹿児島まで行って。  さらっと沖縄にゴールでは…  ね♪(笑)

まぁ。
一カ所も見つから無いとは思いますが(笑)
取り戻したハングリー精神と探求心全開で♪
でも、それはまだ。  ちょっと先のお話し♪

ではまた!  

 

第百六十話  “ 猫の恩返し ” 10-20

昨夜。
野宿した道の駅。  とても賑やかだった。

ブォォンブォォン♪  と(笑)

朝。
目覚めて。  眠たい目をこすりながらテントを撤収。
一通り片付くまではなんだか落ち着かない。
散らかすのは大の得意。  整理整頓は大の苦手。
しかし。
収納術には長けている。
押し込み式収納術(笑)
大抵のモノは押し込めば何とか収まる♪

今日もぎゅ♪ぎゅ~う♪と荷物を押し込みパッキング終了。
ささやかな朝食を済ませ。
いざ出発。
昨日、道の駅でパンフレットを見ていたら。  ここ日比水道を龍馬さんも船で通ったらしい。
この先にフェリー乗り場があり。  伊万里の先の方まで行ける。
それで行こう♪  と、フェリー乗り場へ。

到着したフェリー乗り場で。  切符売場のおじさんが。  ニコニコと話しかけて下さった。
『さっき坂走っとったな~早か~もう着いたとね~』と。
切符を買うと。
ハコブンダー料金はおまけしてくれた♪

待ち時間があるので。  近くの港をうろうろしていると。  さっきのおじさんが。
いろいろ案内してくれた。

おっおじさん…仕事は?
と、こっちが心配してしまう。

カマスの干物。

おもむろにおじさんに。
ここの日比水道を龍馬さんも通ったんですよね!と聞いて見ると。
『あぁ。日比水道はあの橋の下。こっちは通っとらんとよ(笑)』と…。

ともあれ。  フェリーに乗り込む。
島の方達に盛大に見送られ出発した。


のは、自分では無く修学旅行の生徒さん達。

どうやら。
体験学習と言った感じで、島の民家に宿泊する民泊とやらがはやっているらしい。
賑やかな船内。
あっという間に到着してしまった。

そして。  その後。
おそらく、陸路で行ける一番西の島まで行って見ようと。
自分でも。
なぜこの島を目指しているのかわからなかったが。
せっかくだから♪
と。
道の駅も一カ所ある。
寝る場所には困らなそうだし。  と、完全に寄り道だ。

しかし風が強い。
ここしばらくは穏やかな日々が続いていた。
一度、ちらっと雨に降られた日はあったが。
鳥取と島根の境を走っていた時以来雨は降っていない。
どんよりとした黒い雲が不気味だ。

話しには聞いていた。  長崎は坂の街だと。
その通りだ。

坂・坂・坂。

最近は無理に坂をこいで登らない事にしている。
無理にこいで登ると膝が痛くなる。

途中。  一休みしていると。
にゃぁ♪と。
猫くん達が群がって来た。

お腹を空かせているのか。
目で何かを訴えてくる。

自分もたくさんの人達にお世話になって来た。
その恩返しを♪
と。
懐に隠し持っていたパンを。

その後。
出島より以前に外国との貿易で栄えたと言う街を越え。
道の駅のある、その昔遣唐使の人達が。

ここまで来たら一安心♪  と、一"息着き"。  
立ち寄った島へ。  恐ろしく風の強い橋を渡りたどり着いた。
しかし。
到着したものの。  諸々の事情と。  この風の強さに。  ちょっと凹んでいた。
テント張ったら…飛ばされるな(汗)と。

あいにく。  風をかわせる場所にいいスペースがない。
引き返そうと思っても。  もうじき日が暮れる。
腹をくくるしかない。
今夜は冷えそうだと。

そんな時だった。
さっき道の駅の入口ですれ違った時に挨拶をしたおじさんが話しかけてくれた。。
道の駅の駅長さんかと思い。
『一晩だけ野宿させて頂いてもいいですか?』と聞いてみると。
駅長さんではなかった(笑)
しかし。
『大丈夫だよ、けど今日は風が強いとね』と心配そうな顔を。
と、そこまでは旅をしていると良くある光景だった。

10分後
さっきのおじさんが。  ニコニコしながら戻って来た。
『安心しなさい!今日の寝る場所を確保したから♪』と。

…え?

『小屋みたいな所だけど、そこでよかったら♪』
どんな場所でも屋根と壁があれば有り難い♪
『ありがとうございます!』と、お言葉に甘える事にした。
そして。
おじさんの車の後を追いかけ。  一軒のお宅にたどり着いた。
そこにはおばさんがいて。
『さぁどうぞ!』  こっちこっちと、そんなそぶりを。

坂を下ると。
おぉ!  ガレージだ♪
『そこに自転車おいてね。』と。
ここなら風も、もし雨が降っても大丈夫だ♪  と、思っていたら。
隣にある部屋に案内された。
『なんにも気にせんでいいからここでゆっくりしなさい♪』と。

え?
いやいや。

このガレージで十分です!とそんな気持ちだったが。
『普段使ってない所だから遠慮しないで』
と、その言葉に甘える事にした。

Mさんと。


KAYOちゃんことTさん。

Mさんに『なんか…ありがとうございます!』と言うと。
『ここは島だから♪』と。
島の人達はお互いに助け合いながら生活している。
困った時はお互い様♪  そんな意味合いだったのだろう。

Tさんが。
十日前に子猫を拾ったと言っていた。  ガレージにいるらしい。
その話しを聞いた時。  ふと、昼間の猫くん達を思い出し。
あぁ、あの猫くん達が恩返ししてくれたのかなぁ~と。
そう思った。

夜、Tさんが食事に招いてくれた。
車に乗りTさんのご自宅まで。
この島も今朝の島のように。  修学旅行の生徒さん達が民泊に来ているらしい。
そしてTさんのお宅にも広島からの中学生が泊まりに来ていると。

そんな訳で中学生の皆さんと一緒に豪華な夕食♪
この子達も。
修学旅行と言えども。  旅をしている。
日常の生活から離れ。  見知らぬ土地の見知らぬ島に来て。  島の人達の生活に触れ。
暖かい心に触れる。
その中で。
何をどう感じるのだろうか。

*広島の中学生の皆さん、夕食をご一緒させていただきありがとうございました!

夕食をお腹いっぱいごちそうになり。  生徒さん達にお礼を言い。
Tさんにさっきの家まで車で送っていただいた。
明日の朝は忙しいから、気にしないで出発してね!と言うTさんに。
精一杯のお礼を伝え、車が走り出し見えなくなるまでお辞儀をした。

*Tさん。本当にありがとうございました!感謝します。

部屋に向かう途中。  ガレージを横切ると。
私にしか近付かないと言っていた子猫が  ミャァ~♪と自分を出向かえてくれた。

Tさんに救われたもの同士。
ちょっと心が通じ合った気がした。

今日はそんな一日だった。

ではまた!

 

~自転車日本一周波乗旅的西方島波見聞録~
第百六二話 “ 序章 ” 10-22


西の島に向かう船に乗ったのは。
ほとんど勢いだった。

船のゲートが開かれた時。

なぜだかわからないが。
今までとは違う妙な緊張感があったと記憶している。

ともあれ船に乗り込む。
予想以上に乗客が多い。
空いているスペースが見つからず。  船の前の方へ前の方へと。。
なぜかこっちは人もまばら。
最前列の端っこのスペースがガラガラだ。
なぜこの場所が空いていたのかは後で身を持って知る事になるのだが。
もちろん今は何も気付いていない。

よかった~♪
と、くつろげるスペースを確保し一安心。

出港の汽笛が鳴った。  デッキに駆け上がる。
離れて行く港。

天気が良ければ海に沈む夕日を見られただろうが。
あいにくの曇り空。  相変わらず風も強い。
船室へと戻り。
徐々に暗くなって行く外の景色を眺めていた。

そして。
いつしか寝てしまっていたようだ。

大きな揺れで目を覚ました。
まるで公園にあるシーソーの如く。  船首が波で持ち上がり。
ど~んど~ん♪
と、船底が海面を叩いている。  この大きな船がだ。

あぁ。
湾を越えて外洋に出たんだなぁ~と。
その時はその程度しか思わなかった。
おりからの強風である。  当然、海は大シケだ。

今まで。
様々な場所で船に乗り。  旅を続けて来たが。  ここまで揺れたのは初めてだった。
しかしながら。
どうする事も出来ないのでそのまま横になった。
が。
上下左右に振り回される体。
波乗りを初めて早10数年。  ヘナチョコでも波乗人が。 

波に。  酔った(笑)

先に書いたように。  どうする事も出来ない…。
ひたすら気分を紛らわそうと必死になる。
心の中で歌を歌おう♪
そう思い。  出てきた曲は。  海は広いな大きいな~♪
と。
頭からは荒れ狂う海が離れない…。
そう言えば。
北海道の山道で心細くなった時は。

ある日♪  森の中♪  熊さんに♪       出会いたくない…。

得てして切羽した状況下では発想は限られるらしい。

いよいよ気分が悪くなり。  冷や汗まで出て来た。
ヤバい…このままでは…
慌てて、万が一に備えWCへ。
向かう途中。  後部席で。  平然とくつろいでる島民の方達を見て。

あっ…。
皆さんは船のどこが揺れるのかを熟知していたのだ。
遠足の時。  酔いやすい子供は。  タイヤの近くの席を避けるように。
なんでこんな単純な事に気付かなかったのだろう。

そもそも。
自分が船酔いするとは思っていなかった訳だが…。

逃げ込んだWC。  四角い狭い空間。
かえって具合が悪くなり。  風にあたろうと。  フラフラしながら外のデッキに向かった。

ベンチでダウン…。

こういう時の1時間は。  永遠に感じる程長い。
しかし島が近づくにつれ。  揺れも治まり。  なんとか復活。

船旅を楽しむ余裕もないまま。
自転車日本一周波乗旅的西方島波見聞録は幕を切り。
街の明かりも無く。


ほぼ真っ暗な西の島に。
フラフラの状態で放り出されたのだった(笑)


続く♪

 

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