第百十九話  Great Surf jorney Day-46 
“ 情熱の職人魂 ” 09-04

金曜日の夜。
函館のライダーハウス:ウィロビーさんにふらふらしながら転がり込む。

オーナーのH・Tさんは、最初は寡黙な人かと思ったが。
サーフィンに対する情熱を静かに、しかし誰よりも熱く燃やしている人だった。

その日の夜。
登山好きのおじさん一人と。  波乗り好き二人。

いろいろ話した。
波乗りと登山。  一見話しが噛み合わないように思えるが。
自然に対する感謝の気持ちと畏敬の念。
そこには共通点がたくさんあり、フィールドは違えど同じ感覚を共有している事がわかった。

いや。  フィールドは同じだ。  地球と言う星の自然がフィールドなのだから。
三人の熱い話しは涼しいはずの北海道の夜さえ熱くした。

翌朝。
さぁ。  今日は自転車の修理をせねば。

街にある自転車屋さんを尋ね回る。
『すいません!直りますか?』
『…いやぁ部品がないね…』  『うちの店ではちょっと…』  と、立て続けに断られた。

断る自転車屋さんの表情を見ると。  少し焦り始めてきた。
あれ?もしかしたら、この故障はちょっと厄介な状況なのかも…

直らなかったらどうしよう…。
と、弱気になりながら次の自転車屋さんへ。

街の自転車屋さんは。  年々その数を減らしている。
大型の量販店やインターネットの影響だろう。
正直、どこのお店も活気がなく、主人の目には力がない。

次のお店にたどり着くと。
タイヤのパンク修理を待っているおばさんと、修理中のお店のご主人がいた。

お店の前に自転車を止めると自分にちらっと目をやった。
そして自分の姿を見て『ちょっと待ってて。』 と、今は修理に専念している。
おばさんの自転車のパンク修理が終わったかと思ったら。

そのまま、頼まれてもいないのにブレーキやチェーンを確認し、整備しだすおじさん。
その姿を見て。
あっ!このおじさんならなんとかしてくれるかも!
と、その自転車に対する職人魂を強く感じ、それが期待に変わった。

おばさんの自転車の修理と整備が終わり、次は自分の番だ。
おじさんに自転車を見てもらう。
『リムかぁ…。』
自分はあまり知識がなかったのでホイールだと思っていたのだが。
壊れた箇所をリムと言うらしい。

『残念ながらうちには在庫がないなぁ。』
と、おじさん。

あぁ…やっぱりダメか…。  と、肩を落しかける自分。
すると。
『うちには(リムのストック)ないけど問屋に行けばあるかも知れないな。』
と、おじさんはまだ自分を見捨ててはいなかった。

そして、次の瞬間には軽トラに乗り込み。  ぶーん!と自分を残して走り去っていってしまった。

しばらく不安の中でおじさんを待っていると。
新しいリムを手に持ったおじさんが自分の前に登場した。
『安心しな!これで(沖縄まで)戻れるから!』
と。
おじさんは笑った。

しかし作業を進めて行くと。



故障していたのはリムだけでなく。
スポークが一本と。  後輪のシャフトも折れていた事が発覚した。

次々に起こる難題に。  おじさんはあれこれと試行錯誤し。
決して諦めず。  職人としてのプライドを持って修理をしてくれた。

そして3時間後。  自転車は直った。

自転車屋さんとサーフショップは似ていると思った。
どちらも量販店やインターネットで手に入れられるが。

売るだけ。  買うだけ。  そこに情熱はない。

サーフショップや自転車屋さんには。  物のやり取りだけでなく。
人と人の。  心のやり取りがある。
そんな気がした。

*おじさん本当にありがとうございました!

 

 

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