第九十一話  Great Surf jorney Day-10 
“ THE◎DAY & 行き当たりバッチリ ” 07-31

ついに。  ついに。  たどり着いた。  この三ヶ月間。
一日たりとも頭から離れる事が無かったこの島。

利尻島。
今日という日をどれだけ待ち望んだ事か。



フェリーから降りいつものように辺りをさ迷う。
フェリーから降りると方向感覚が無くなっていて毎回ウロウロする。

まずは行く所がある。
利尻島のローカルサーファーさんに挨拶無しでは勝手に他人の家に上がり込むのと一緒だ。
向かう先はマルゼンさん。

数年前。  始めてRISHIRI WAVEを見た時は驚いた。
インターネットの画面に釘付けになりながら、『で…利尻島ってどこ?』と…。
そしてまた驚いた。
えっ!?こんな所で…
と。
その衝撃以来、利尻島へ行く事は漠然としたごちゃまぜの夢の中の一つだった。
そのRISHIRI WAVE(HP)の方がマルゼンと言う宿を営んでいる。
らしい位の情報しか無かったが、

何はともあれ。  マルゼンさんを探す。


自分はつくづく運がいい。
お宿マルゼンさんを見つけ、自転車を停める場所を探していると。
『よく来たね~!しかし凄い時に来たね!今日最高だよ♪』
とMANANIさんが出迎えて下さった。

『ちょっと待ってて!』と、しばらくすると。



RISHIRI WAVEのTOSHIYAさんにお会いすることが出来た!
そして。
『なんならこの後、行くかい?』と、TOSHIYAさん。
断る理由は何もない。  

『はい!』と。

15時に待ち合わせ。
それまでの間にキャンプ場へ行きテントを張り。



ボードとウェットだけを積んだ超軽量化仕様でマルゼンさんへ戻る。
30分も早く着いてしまった。
が、待ち兼ねていたように『行くよ!』と。
TOSHIYAさんの車に飛び乗り、島の反対側。

利尻島のメインブレイク。  神磯【KAMIISO】へ向かう。
途中。  急に周りが明るくなり。
海にばかり気を取られていた自分の左手の光景に思わず息を飲んだ。



利尻富士。

稚内へ向かう途中、天気が良ければ海沿いの道から利尻富士を見る事もできるらしいが、これまであいにくの天候が続き、フェリーからでさえその姿を容易には見せてくれなかったこの山。
息を飲んだ。
こんなに存在感のある山は始めて見た。
山に魅せられる人達の気持ちが少しだけわかった気がした。

心の中で。  『登ってみたいなぁ~。』  と、そんな事を少しだけ考えていた。

さらに南へと向かう車。  右手の海を見ていると。  行けば行くほどに。
波のサイズが上がって来ている。
いよいよドキドキしてきた。
TOSHIYAさんと話しながらも、そこにあるであろう波を考えると武者震いした。

緩やかなカーブを抜けると。  『あそこに一人いるでしょ、あそこだよ!』と。
その方向を見ると一人のサーファーの姿が見える。

そして。  ついに見た。  

利尻の波を。











TOSHIYAさんはすでにスーパーハイテンション(笑)
着替えながらもセットが入るとヒューヒュー言っている。

またしても武者震い。 『やなっち!行くぞ!!』と、チャンネルからアウトを目指す。

近くで見れば見る程。  恐ろしく、そして綺麗な波だ。
ひとまずセットをかわせる場所にポジションを取る。
ドキドキを深呼吸で必死に抑える。
相変わらずTOSHIYAさんはセットが来る度にヒューヒュー言いながら、ピークのど真ん中で波を待ち続けている。
TOSHIYAさんが雄叫びと共にセットのピークからドロップしていく。
しばらくすると。
自分のポジションにセットが入って来た。  見送ろうかどうしようか一瞬考えた時。
『GO!GO!』と突撃命令が下った。  腹を決めテイクオフした。

Go for it!
ボトムターンをするまでの一瞬、世界がスローモーションになった。
フェイスに入ると急に世界が早送りになり全身にゾワゾワっと何かが駆け巡った。
クローズセッション手前でプルアウト。
沖へ戻りながらヒューヒュー言っている自分がいた。
『ありがとうございました!』とTOSHIYAさんに言うと。
あっちあっちと岸の方を指さした。  ん?と振り返るとそこには利尻富士が。

思わず拝んだ。  この時、ここまでのすべてが報われた気がした。
利尻富士を見ていたら。  またぐっと来た。
しかし。
そんな場合じゃないだろうと言わんばかりにセットが来て慌てやり過ごそうとすると。

『GO!GO♪』  待たしても突撃命令だ(笑)
GO!GO♪と言われて行かなければ男がすたる。
慌てて体勢を立て直し。  なんの意図もないが、まさかのスーパーレイトテイクオフ。
それでも、ここまでの道のりで勝手に鍛えられた下半身の筋肉が自分を救う。

自分の中で。  今までで一番際どく。  そして最高のテイクオフだった。

それから2時間程。  たったの三人でこの波を分けあった。
正確には分け与えていただいた。

人と自然に。

海から上がると。  これまでの迷いはすべて吹き飛んでいた。
まだ見ぬ波があり。  まだまだ出会うべき人達がいる。
点と点で繋がった線を円(縁)にするために。
この先もまた悩んだり、息詰まったり色々あるだろう。
でも自分には目指すゴールがあり、自分もそれを望んでいる。  それだけでいい。

帰り道。  雲の切れ間からオレンジ色の利尻富士が見えた。

ふとした話しから。  思いもよらない展開になった。
8月3日&4日。  利尻島で働く事になった。
すべて天候次第だが。  山岳ガイドをしているTOSHIYAさん。
NHKのロケのガイドをするらしい。
その。  ポーター(荷物持ち)を仰せつかった♪
最北の日本百名山。  利尻富士。  標高1721㍍。  山は未知の領域だが。

あの姿を見たら…

【行き当たりバッチリ!】TOSHIYAさんが教えてくれた言葉だ。
なんだかすごく気に入った。
どこにどう行き当たっても、今その時点が最高でバッチリならそれでいいじゃん!
と、自分は理解した。

戻るとMACHIKOさんがこう言った。  『今日はTHE DAYだったね!』と。
TOSHIYAさんも。  『今日の波は久々の◎だ!』と言っていた。
この巡り合わせに感謝するしかない。

その日の夜。  TOSHIYAさんが『飯行こう!』と誘って下さった。

お店に着くと。
一心不乱に何かを書いているTOSHIYAさん。



メニューの注文のようだ。
珍しい島でしか頂けない料理が次々と。





ビールと笑顔とともに。  TOSHIYAさんから語られる言葉の一つ一つが。
自分の心を見透かしたかのようにど真ん中のストレートで入ってくる。
『迷った時、道が二つに別れた時。どっちに行ったっていいんだよ。結局またその先で、その別れ道は繋がってるんだから!』

キャンプ場に送ってもらい空を見上げると。  流れ雲の隙間に星が瞬いていた。

今朝5時過ぎ。



電話がなった。  『やなっち!波ありそうだよ!今から行くね!』と♪

 

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