第百七十三話 “ 開聞岳に抱かれて ” 10-30

開聞岳が見えて来た。

前に開聞岳を見たのは。
そう。  ちょうど半年前だ。

沖縄の本部港から。  フェリーに乗り。
一晩眠り。  夜が明けた。

鹿児島が近づくにつれ。  自分の目をくぎ付けにしたのは開聞岳だった。
その時に。  一緒に話していた鹿児島のおじさんが。  その秀麗な山を見てこう言った。
『開聞岳が見えると、帰ってきたなぁ~って思うんだ』と。
そして。
『もうすぐ錦江湾だ。鹿児島はもうすぐそこだぞ♪』と。

枕崎に着いた辺りで見えてきたこの山を見て。  その時の光景が鮮やかに蘇った。
あれから半年か…。
と。
少し前まで。  鹿児島に近づく度に。  表現しきれないような気持ちになっていた。
でも。
その先に再び目的を見出だした時から。  鹿児島へ近づく事への切なさは消えていた。
まだまだ旅は終わらない!
と。

今日の目的地を決め。  それぞれに出発した。
常に視界には開聞岳が見えている。
しかし。
必ずと言っていい程。  視界を遮るものがある。

どこかでこの山を。  この山だけを眺めたかった。

いつしか自分の中で。  波探しならぬ開聞岳ビューポイント探しが始まった。
いくつかの場所で山を眺め。
ん~…なんか違うなぁ…と思いながら進んで行く。

急に海沿いの道に出た。
ちらっと見ると。  中々よさそうな場所がある♪
ハンドルをきり。  海岸淵まで行ってみた。

♪  やっぱりこれだ♪

海にそびえ立つ円錐の山。
視界を遮るものは無く。  その裾野までを見る事ができた。
近くに。  車を停めて海を見ている人がいた。
ふと見ると。  サーファーさんのようだ♪
『おはようございます!』と挨拶すると。
笑顔が帰って来た。

NAさんとNIさん。


この少し先に。  ポイントがあり。  そこなら少しだけ波がある。
と、教えて下さった♪
場所を聞き、お礼を言ってその場所に向かった。

集落を抜け。  ガタガタ道を進み。

明るくなったら左。
その通に進んで行くと。  海岸手前にたどり着いた。

そこには。  海あがりのサーファーさんの姿があった。


『こんにちは~!』と挨拶をし海を見に行った。
海に入っているサーファーさんが一人だけいる。
波は。  ひざ。  潮が上げて来ていて。  割れづらい波。
たま~のセットが辛うじて岸近くでブレイクする。

そんなコンディションだった。

旅に出る前の自分なら。  この状況で海に入ろうとは思わなかったかも知れない。
しかし。
その海を見て。  旅の締めくくりに相応しいと思った。

波・サーフィンに対する感謝の気持ち。
自分の心次第で。  どんなコンディションでも。  "いい波"に出来ると。
それをこの旅で知った。

卒業試験だ♪

おもむろにウェットに着替える自分。
ちょうど今、海あがって来たローカルさんが。
『えっ!?今から入るの?』と驚いた。
『はい!』と自分。
確かに。
このコンディション。  一本も波には乗れない"かも"しれない。
でも。  乗れる"かも"しれない。  可能性は常に0ではない。

海に入る。
開聞岳がすぐそこに見える。
その雄大さを肌で感じる。
海に入らなければ感じられなかったかも知れない。

波は相変わらずだ。
いつ来るともわからない波を待ち続ける。

そんな時。  一本のセットがやって来た。
行ける♪
直感的にそう思った。
ピークを見つけ全速力でパドルする。
乗れた♪
ロングライドでも何でもない。  ただテイクオフしプルアウトしただけだ。
でも。
それだけで大満足だった。
すると。
さっき海から上がって行ったサーファーさんが。  再び海に入ってきた。

二人で。
右かと思えば左。  左かと思えば右に入ってくる気ままなセットに振り回されながら。
笑いながら波乗りを続けた。
『今度は左じゃないですか(笑)』
『でも左に行くと右に入るんだよね~(笑)真ん中かなぁ~』
『じゃあ自分は右に♪』
と、そんな具合だった。

結局。
その日一番のモモサイズのセットは。  二人の予想に反して。  左奥でブレイクした。

楽しかった。
改めて思った。
波は。  波乗りは。  サイズやコンディションではない。
と。

心でするものだと。




ではまた!