第百五十六話  “ 洗心 ” 10-16

下関から九州に渡るには。  いくつかのルートがある。  らしい。
が。
関門トンネルの人道を渡るルート。
これがチャリダーの一般的なルートだ。
当然、自分もそのルートで九州に入ろうと考えていた。
だって海の下に掘られたトンネルを歩けるなんて。

ワクワクする♪

しかし。
そのルートに黄色信号が灯ったのは数日前だ。
旅人はお互いに情報を共有しあう。
一番最初にその事を教えてくれたのは。  KENGO君だった。
途中で出会った旅人に聞いたらしい。

関門トンネル全面工事!!



詳しい情報はわからなかったが、すこしやっかいそうだ。

下関に近付くにつれ。  情報が濃くなって来た。
どうやら。
工事はして全面通行止めらしいが。  
とりあえず自転車や歩きでも。  九州には行けるようだ。

が、その方法がちょっと嫌だ…。
自転車を輸送トラックに乗せ。  自分はバスに乗って橋を渡るらしい。
くだらないこだわりだが。
これから先に進む道ではピックアップもヒッチハイクもしたくない。

地図を広げ思案する。    フェリーがあるようだ。

今までもそうだったように。  やはり海を渡るならフェリーにしよう。
と、そう決めた。

関門海峡フェリーの乗り場に向かう。
料金はたったの300円だった♪
出発の時を待つ。
フェリーに乗る時はいつも不思議な気持ちになる。
そこまで来た道のりとこれから先の新しい土地にドキドキする。
すごく旅情を掻き立てられる。   だからフェリーが大好きだ。

待合室にフェリー到着のアナウンスが流れる。
到着したフェリーから出てくる車を見送り。



フェリーに乗り込む。
自転車を預けたらすぐにデッキに駆け上がる。
いよいよ出港だ。
本州がだんだん離れて行く。



毎回だが。  この瞬間。   色んな思いが込み上げる。。
日本海側もいろいろ楽しかったなぁ~。
青森の大間から日本海にでて、それから…

~ピンポンパンポン♪   間もなくフェリーは小倉港に到着します♪~

えっ!?   早っ!   たった10分位の船旅だった(笑)
感慨深さに浸る間もなく。
あっさり九州に上陸してしまった。

そしてここから。   都会嫌いな自分は。   どんどん鬱になって行く。
踏切を渡る為だけにそこら中を走り回り。



やっと見つけた迂回用地下道には降りられず。
わかりづらい看板標記に迷いに迷い。
堂々と歩道に停めた車に行く手を遮られ。



自転車とすれ違う時、邪魔かな~?と思い端によけて待っていれば、なぜかその人に睨まれて。
横断歩道を渡ろうてすれば左折車の人にも睨まれる。
はぁ~。

わかっている。
そんな風に思ってはいけないと。   それはわかっているが。   都会を走る度に辛くなる。
当然、笑顔も無くなり。   ため息ばかりで胃が痛みだす。
昨夜の寝不足もあり。
晴れているにも関わらず。   宿を探しひきこもる。
19時頃には寝入ってしまったようだ。

そして今朝。
宿のおばちゃんに挨拶をして出発。
途中で出会ったサーファーさんがポイントへの行き方を教えてくださった。


*Tさんありがとうございました!

ポイントに到着すると。   たくさんのサーファーさんで賑わっている。
しかし。
どこか昨日のテンションを引きずったままの自分は。   どーしても海に入る気がしなかった。
それはポイントの雰囲気がどうとか。   波がどうとか。   そんな問題ではないのだ。
自分の心の問題だ。
自分の心次第で。    どんな状況も、"いい波"にすることができる反面。
"ワルい波"にもしてしまう。
そのポイントで波乗りを楽しむサーファーさんを見ながら。
今日の自分には、この波は与えられていない。
そう感じていた。

とても笑顔で波乗りできる自信がなかった。
気持ちの切り替えの早さは特技の一つだが。
こんな日もたまにある。

声をかけて下さったサーファーさんに挨拶をして先に進む。
海の見えるベンチに腰掛け。
ずっと波を眺めていた。



なんだかちっぽけな事にいつまでも心を捕われている自分に気付き。   馬鹿馬鹿しくなった。

ここまで旅をしてきて。   自分はいったい何を感じ気付いたのか。
都会がどうとかこうとか。    そんな事をまだ言っている。
自分が嫌だと思えば。    どんな事もそういう方向に動き始める。
悪口を言う人が周りから悪口を言われているように。
思いやりの無い人には親切が巡って来ないように。
自分が心に壁を作ってしまえば。    かえってその防ごうとした何かは。
壁の中に閉じ込められ。    心の中はその事に満たされてしまう。

そして。
悪循環が始まる。
そんな時は。
心を洗わなければならない。
座禅を組み。    波の音を聞き。   心静かに。


…。

サーフィンは。    波に自分の波長を合わせなければならない。
自分の心が乱れている時は。    波と波長が合わなくなる。
そんな時に波乗りをすれば。   波に対する。    自然の恵に対する。    感謝の念は生まれない。

そこには。
単なる自己満足のサーフィンがあるだけだ。
サーフィンは技術や道具でするものではない。
心でするものだ。    と、改めて思い。
サーフィンをする為には心の在り方が大切なんだと。
そう思った。

夕方。


道の駅に着き。
ぐんぐん下がって行く気温に洋服を着込む。
なんとなく。    九州は暖かいイメージだったが。

寒い…。

ヒートテックという名のももひきをはき。    暖をとる。
そんな時だった。
どこか見覚えのある姿が。

大阪のY君ことYAHEI君だ♪

そして途中で出会ったと言うMANABU君。

今日は一人かと思っていたので突然の再会&新たな出会いがやけに嬉しかった。
冷たい風が吹き付ける夜の道の駅で。
くだらない笑い話が。    寒さを少し和らげてくれた。

結局。
モヤモヤした気分は出会いが忘れさせてくれた。

今日はそんな一日だった。

ではまた!