第九十話  Great Surf jorney Day-9 
“ 利尻島へ ” 07-30

朝目が覚めると。
昨日までの風は止み。  どんよりとした雲の中にも平穏な雰囲気を感じた。

荷造りをし、稚内のフェリーターミナルへ向かう。
思ったより早く到着し、9時50分の発券開始を待つ。
予約をしていなかったので心配したが空いているようだ。

車輌搬入場所へ移動。
ハートランドフェリーのおじさが話し相手になってくれた。

今年はバイカーやチャリダーは少ないらしい。
確かに。  乗船間近になってもバイカーやチャリダーの姿はない。

利尻島から航行してきた【Boreas Soya】が着岸した。
しばらく待つと、おじさんがGOサインを出し、自分は『行ってきます!』と自転車を押しフェリーへ向かう。
いつものように。  船員さんを戸惑わせるハコブンダー。
『お願いします!』と相棒達を託す。
ぐるっと船内を一周。  やはりデッキが落ち着くらしく椅子に腰を下ろす。

夏休みの行事だろうか。  大人達に引率され子供達がたくさん乗って来た。
みんなワクワクした目をしている。
自分は。  デッキの最上階で、数日ぶりに目にする、僅かな青空を見ていた。

11時10分  定刻だ。  
エンジンの音が少し大きくなり。  お腹に響く汽笛の音と共に船体が動きだした。

その時だった。  なんの予告も無しに。  ぐっと込み上げてくるものがあった。
今まさに利尻島へ向かい始めた船上で。
これまでの道のりがフラッシュバックした。

思えば三ヶ月前。
沖縄の本部港でシーナサーフのコガちゃん、おっきー、そしてBOSSに見送られた時から本当の旅が始まった。



その時から。  ずっと目指していたのは利尻島だった。
まさかこのタイミングで想いが溢れてくるとは思っていなかったので、自分の感情に驚きはしたが嬉しかった。

回りの人達を見ると泣くに泣けず。 
ぐっと堪えはしたが、少しずつ遠ざかって行く稚内の港は霞んで見えた。

正直に言う。  実は少し旅に疲れていた。  先を考えれば考えるほど。
北海道に入ってもまだ半分にも達していない。
自分では認めたくは無かったが確実に気持ちは焦っていた。
その焦りが自分から感情を少しずつ少しずつ奪っていた。

これじゃダメだ。  と、思いながらもその焦燥感は消えはしなかった。
その焦りの中で溢れ出した自分の感情に。  再び旅を感じる事ができたのだ。

そして。  これまでの出会い。  苦難。  喜び。  寂しさ。
そのすべてに改めて感謝した。

海でたくさんの笑顔に囲まれて波乗りをした日もあった。
街中での野宿が怖くて眠れない日もあった。
峠道を自分に負けたくない一心で死に物狂いで這い上がった日もあった。

夕日を見つめ、自分を見つめ直す日もあった。

一つ一つの出来事が。  一人一人との出会いが。  繋がって。  線になって。
今、そのラインは利尻島へ。

ここまで約4200㌔  沖縄から利尻島までを線で繋げた。
しかし。  これはゴールではない。  通過点だ。
繋いだこの線を大きな円(縁)にする事。  それがこれから先の目標となる事を。

利尻島が見えて来た。  利尻富士はその姿を雲に隠している。
その雲が晴れた時。  どんな姿を見せてくれるのだろうか。

ふいに訪れたこの感情の中に。  改めてこれまでの出会いそのすべてに。  感謝します。

一期一会・一波一会

稚内~利尻島航路より

 

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