~ちゃりんこ日本一周サーフィンの旅 番外編 ~歩旅最果島紀行~ 第百九十三話  “ 闇夜の驚き。そして… ”  11-25~26

~ちゃりんこ日本一周サーフィンの旅 番外編 ~歩旅最果島紀行~
第百九十三話  “ 闇夜の驚き。そして… ”  11-25~26

日が暮れると。
雨はやんだが。
空は相変わらず厚い雲に覆われているようだ。
月明かりさえない山中は本当に真っ暗闇だった。

ろうそくのランタンを取り出す。

 

オレンジの暖かくふんわりとした明かりが心を和ます。

ゴォォ!と言うマリュドゥの滝の音が強すぎるのか。
今夜は鳥や虫の声もあまり聞こえない。
滝の音に負けないくらいに大声で鳴いているのはカエルくらいなものだ。

寒さと虫から身を守る為に。
それぞれが自分のテントに入っている。
そのテントで横になりながら二人でいろいろ話していた。

基本は自分がTAKAさんに質問し。
TAKAさんがそれに答える。
その繰り返しだった。
質問が途絶えると。
急に滝の音に全てを支配され。
ぶるぶるっと身震いしそうになる。

『TAKAさん…たぶん自分一人でこの状況は堪えられなかったです…』
『そう?俺は案外平気だなぁ♪』
『…』
『あっ!世界を旅してて一番美味しかったお酒は何ですか!?』
と、沈黙を作らない為だけにどうしようもない質問ばかりをしてしまう自分。

しかし、文句も言わず一つ一つ答えてくれるTAKAさん。
『アルゼンチンのワインかな(笑)
すごい安くてさぁ♪
でも美味しいんだよね~
チリワインなんか目じゃないよ(笑)』

『そういえば。
アルゼンチンはビーフが安くてさぁ~
毎日毎日ステーキばっかり食べてたなぁ(笑)』

そんな質問攻めの自分に珍しくTAKAさんがこう聞いてきた。
『ミツイさん知ってる?』
と。


ミツイさん?

一瞬この問いの意味がわからなかった。
でも一瞬でTAKAさんの言うミツイさんが誰だかわかった。

『リキシャのミツイさんですか?』と切り返した。
『そうそう。そのミツイさん。』
『あぁ♪ミツイさんなら確か…秋田か山形かあたりで会いましたよ♪』
『へぇ~会ったんだ~』
続けて。
『実は俺もさぁ~(タイの)カオサン(通り)の屋台でミツイさんに会ったんだよね(笑)』
『えええぇ!』

ここは西表島の山の中だ。
二日前。
偶然にキャンプ場で遭遇した自分とTAKAさん。
その二人が。
旅人を通じて。
繋がった瞬間だった。
TAKAさんは会った初日の夜と同じ事を言った。

『ほらね♪世界は広いけど世間は狭いでしょ(笑)』と。

ミツイさんは写真家であり旅人で作家さん。
皆さんも覚えているだろうか。
アジア風の装飾が施された三輪車に乗って旅していたあの人だ。

*自転車日本一周波乗り旅日記~144日目~参照

こんな事って…
驚くより先に笑ってしまった。

しかし。
なぜTAKAさんがその質問をしたかの方が自分の興味をくすぐった。
『しかしなんで急にミツイさん出てきちゃったんですか?』
と。

答えはこうだった。
ミツイさんはTAKAさんが世界一周の旅に出るきっかけになった人の一人らしいのだ。
そのミツイさんが今年はリキシャで日本一周に出た事を知っていたTAKAさんは。
自分にそんな質問をしたようだった。
『しかし、まさかミツイさんに会ってるとはなぁ~(笑)』
と、TAKAさんも笑いが止まらない様子だった。

会話と会話の間隔が次第に開きはじめ。
いつしか自分は眠りについていたようだった。

真夜中にふと目が覚めた。
ん?
真っ暗なはずのテントの外がほのかに明るいのだ。
ん?なんでだろう?
ジィジィ~っとテントのファスナーを開け。
恐る恐る外を覗いて見る。

すると。
目に飛び込んで来たのは。
力強く夜空に瞬く一つの星と。
木々の隙間から優しく山を照らす明るい月だった。


 
晴れ間の見えた夜空に安心し。
再び深い眠りに落ちてしまったようだった。

目覚ましの電子音が文明社会から隔絶された山中に響き渡った。
眠い目を擦りながら。
昨日の夜の月は夢だったのかとうなのかと半信半疑に成りつつ。
晴れていて!と願うような気持ちでテントから這い出した。

 

雲は多少ある。
が。
これは晴れだ♪
東の空がほんのりと色づいてきた。

こうして今朝。
朝日を見る事ができるとは思ってもいなかった。
 

 
自分はマリュドゥの滝と朝日に。
思わず手を合わした。
二人共無口で。
しかし口元は緩みっぱなしで荷物をパッキングし。
足取り軽く。
マヤグスクの滝を目指し出発したのだった。
 

 
続く~

 

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