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第百七十二話 “ 真夜中のトムソーヤ ” 10-29

今日は。
一日中。  ダラダラと。  のらりくらりと。
小春日和の長閑な道を。  ぽかぁ~ん♪と走っていたからだ(笑)

午後にはKENGO君の予定目的地に着き。

近くの温泉につかり。
これまたぽかぁ~ん♪と…
今度は。 温泉施設備え付けの。  リクライニングチェアに寝転がり。

よだれをだらぁーんと…。
世の中に戦争や紛争が起きているのが嘘のような。  そんな平和な一日。

夕方。  KENGO君と合流。


彼が温泉に行っている間に自分は洗濯をし。
旅人の強い味方。  夕暮れ時のA-COOPへ♪

2割引♪  3割引♪  半額!!
そんなシールが貼られた商品を血眼で探す(笑)
見つけしだいカゴに入れる。
どれを買うか決めるのはその後だ。
夕方のスーパーは。  ワンピークのポイントブレイクだ。
ローカルのおばちゃんがひしめくその中で。  ビジターの自分に与えられるものは少ない。
そんなにガッツかないでメローに行きたいが。  こちらも今日の夕食がかかっている。
極上のセットを待ってばかりもいられない。
何とか。  おこぼれに預かり。  明日の朝食まで手に入れた。

さて。  一つ問題が。
今日の寝床が決まっていない。
このまま。  A-COOPの閉店を待ってその軒下で♪
と言う緊急避難的な意見も飛び出したが。
実は。
しっかり?リサーチしてあった♪

『この先に公園があるみたいだから、そこに行ってみよう♪』
と、自信満々に発言をした。
『じゃぁ…』と、あまり気の乗らないKENGO君(笑)
そうして。  日が沈み。

地平線に僅かに夕方の名残を感じる午後6時。
その公園を目指して歩き出した。
暗くて自転車には乗れない自分は後ろを歩いて行く。

しばらく行くと。
○○公園入口とかかれた交差点に差し掛かる。
♪  『そこ!右だよ♪』と。
今日の寝床はすぐそこだ!  と、思っていた。
が。
街灯もまばらな道を。  いくら進めど公園が見当たらない。
だんだん焦ってきた自分は。  自転車にまたがり斥候役をかってでた。
『ちょ…ちょっと見てくる…』と。

先に坂を下る。
徐々に街灯もなくなり辺りは真っ暗だ。

その時。
うおぉぉぉん♪ と、いう音が暗闇に響き渡った。

近づいて行くと。
こんな真っ暗闇で草刈りをしている人がいる。
正直。  ちょっと不気味だ…。
何と無く。  その草刈りをしている人の視線を感じたので。
ペこりと。
軽く会釈して通り過ぎた。
しかしその先には。  道らしい道は無く。  獣道のような道しか無くなってしまった。
とてもこの先の道を進み。  例え公園があったとしても…  そこに寝る勇気がない(笑)

がっくり肩を落とし。  来た道を引き返す。
ふと。
周辺の観光案内看板に目がとまったので。  
何かいい情報はないかと。  看板を食い入るように見ていると。
突然。
背後で声がした。
『旅してるのか?』と。
びっくりして振り向くと。
暗がりに草刈り機を片手に持った人がそこに立っていた。

ビクン♪
なぜか高い壁をふらふらと歩いていて。  当然のように足を踏み外し。  壁から落下する。
そんな夢の時のようなビクン♪だった。
この状況は。
B級ホラー映画のワンシーンのようでもあった(笑)
が、話してみると。
怖い人ではなさそうだ。
言葉の端々から。
キャンプやアウトドアに関する深い知識が見え隠れしている。
自分達が寝床を探していると知ると。
『じゃあうちの庭で張れば?』と、そう言って下さったのが。
すぐ近くで。  『くろんぼ』という喫茶店をしているSさんだった♪
案内された庭に着いた瞬間。  自分ははしゃいだ♪
なぜかと言えば。
そこには。  子供の秘密基地さながらの場所があったからだ。

庭にある大きな"あこうの木"からはロープが下がり。
もうひとつの大きな木にはツリーハウスのようなものもあった。
周りには椰子やバナナ、パパイヤなどの南国の植物が生い茂っていた。
さらには。
小さなヨットやシーカヤックが。  その庭を囲むように置かれていた。

『本当にここにテント張っていいんですか!!』
と、聞いた時には。
『絶対この木の下に張るぅ!』と、既に心に決めていた。
『ちょっと暗いから明かりを着けよう♪』とSさん。
裸電球を木に吊り下げる♪
さらに。
ひょうたんを加工したランプを用意してくれた♪

まさか。
つい10分前まで。  こんなに素敵な場所でキャンプが出来るとは。

思ってもいなかった。

テントを張り終えしばらくすると。
Sさんが。
『ちょっとこっちへ来ないか?』と、喫茶店の中に案内してくれた。
遊び心が溢れ出したような。
そんな店内だった。
『はい!お冷や♪』と出てきたグラス。
鹿児島のお水は不思議な味がするようだ(笑)
なぜか水に酔った自分達。  夜遅くまでたくさん話しをした。

Sさんの遊び場は至る所にある。
シーカヤック&離島キャンプ。
フィッシングやウィンドサーフィン。
ヨットにマラソン、トライアスロンまで。
ダイビングはインストラクターで。  山にも登る。
利尻島のTOSHIYAさん見たいだ♪

でもこんな事を言っていた。
『僕はサーフィンと石鯛釣りだけは手を出さないよ(笑)』
と。
『やっている人を見ると、すごく楽しそうで(笑)
自分が手を出したら確実にはまってしまうからね♪』
と。
一つの事にこだわり続けるのでは無く。  自分の興味が赴くままに。  フィールドを選ばない。
その時一番条件が合っている"遊び"をする。
そんな方だった。

こうして。
お水しか飲んでいないにも関わらず。  二人でフラフラしながらテントに戻り。
転がり込むようにそれぞれのテントへ。
ふと。
さっきのSさんの顔を思い出した。

『だっていつまで遊んでいたいじゃない(笑)』
と、そう言っていた顔が。

昔、絵本で見たトムソーヤのようだった。

みんな。
大人になるに連れ。  子供の頃に持っていた"遊び心"を忘れてしまう。
いや。
本当は持っているのに。
でも・けど・だから。  と、なぜか自分でラインを引いている。
そしてそのラインに縛られて。  身動きが取れなくなる。
そして言う。
『そんなこと、俺も若い内にやりたかったなぁ~。』
と。
またそこに。  年齢と言うラインを自分で勝手に引いてしまうのだ。

年齢・性別・ハンディキャップ。
旅をしていて出会ったたくさんのトムソーヤ達は。
そんなラインを。  限界と言うラインを。  誰一人引いていなかった。

86歳のチャリダーYAMADAさんは。
『これは道楽じゃ(笑)』と、人生を楽しんでいたし。
ハンディキャップを持ったお遍路さんは。
『やって見なけりゃわからんだろう!』と言っていた。

みんな。
子供のように目を輝かせて笑っていた。
自分も。
いくつになっても。  そんな遊び心を忘れない。  そんな大人で在り続けたい。

そう思った。

ではまた!

第百七十三話 “ 開聞岳に抱かれて ” 10-30

開聞岳が見えて来た。

前に開聞岳を見たのは。
そう。  ちょうど半年前だ。

沖縄の本部港から。  フェリーに乗り。
一晩眠り。  夜が明けた。

鹿児島が近づくにつれ。  自分の目をくぎ付けにしたのは開聞岳だった。
その時に。  一緒に話していた鹿児島のおじさんが。  その秀麗な山を見てこう言った。
『開聞岳が見えると、帰ってきたなぁ~って思うんだ』と。
そして。
『もうすぐ錦江湾だ。鹿児島はもうすぐそこだぞ♪』と。

枕崎に着いた辺りで見えてきたこの山を見て。  その時の光景が鮮やかに蘇った。
あれから半年か…。
と。
少し前まで。  鹿児島に近づく度に。  表現しきれないような気持ちになっていた。
でも。
その先に再び目的を見出だした時から。  鹿児島へ近づく事への切なさは消えていた。
まだまだ旅は終わらない!
と。

今日の目的地を決め。  それぞれに出発した。
常に視界には開聞岳が見えている。
しかし。
必ずと言っていい程。  視界を遮るものがある。

どこかでこの山を。  この山だけを眺めたかった。

いつしか自分の中で。  波探しならぬ開聞岳ビューポイント探しが始まった。
いくつかの場所で山を眺め。
ん~…なんか違うなぁ…と思いながら進んで行く。

急に海沿いの道に出た。
ちらっと見ると。  中々よさそうな場所がある♪
ハンドルをきり。  海岸淵まで行ってみた。

♪  やっぱりこれだ♪

海にそびえ立つ円錐の山。
視界を遮るものは無く。  その裾野までを見る事ができた。
近くに。  車を停めて海を見ている人がいた。
ふと見ると。  サーファーさんのようだ♪
『おはようございます!』と挨拶すると。
笑顔が帰って来た。

NAさんとNIさん。


この少し先に。  ポイントがあり。  そこなら少しだけ波がある。
と、教えて下さった♪
場所を聞き、お礼を言ってその場所に向かった。

集落を抜け。  ガタガタ道を進み。

明るくなったら左。
その通に進んで行くと。  海岸手前にたどり着いた。

そこには。  海あがりのサーファーさんの姿があった。


『こんにちは~!』と挨拶をし海を見に行った。
海に入っているサーファーさんが一人だけいる。
波は。  ひざ。  潮が上げて来ていて。  割れづらい波。
たま~のセットが辛うじて岸近くでブレイクする。

そんなコンディションだった。

旅に出る前の自分なら。  この状況で海に入ろうとは思わなかったかも知れない。
しかし。
その海を見て。  旅の締めくくりに相応しいと思った。

波・サーフィンに対する感謝の気持ち。
自分の心次第で。  どんなコンディションでも。  "いい波"に出来ると。
それをこの旅で知った。

卒業試験だ♪

おもむろにウェットに着替える自分。
ちょうど今、海あがって来たローカルさんが。
『えっ!?今から入るの?』と驚いた。
『はい!』と自分。
確かに。
このコンディション。  一本も波には乗れない"かも"しれない。
でも。  乗れる"かも"しれない。  可能性は常に0ではない。

海に入る。
開聞岳がすぐそこに見える。
その雄大さを肌で感じる。
海に入らなければ感じられなかったかも知れない。

波は相変わらずだ。
いつ来るともわからない波を待ち続ける。

そんな時。  一本のセットがやって来た。
行ける♪
直感的にそう思った。
ピークを見つけ全速力でパドルする。
乗れた♪
ロングライドでも何でもない。  ただテイクオフしプルアウトしただけだ。
でも。
それだけで大満足だった。
すると。
さっき海から上がって行ったサーファーさんが。  再び海に入ってきた。

二人で。
右かと思えば左。  左かと思えば右に入ってくる気ままなセットに振り回されながら。
笑いながら波乗りを続けた。
『今度は左じゃないですか(笑)』
『でも左に行くと右に入るんだよね~(笑)真ん中かなぁ~』
『じゃあ自分は右に♪』
と、そんな具合だった。

結局。
その日一番のモモサイズのセットは。  二人の予想に反して。  左奥でブレイクした。

楽しかった。
改めて思った。
波は。  波乗りは。  サイズやコンディションではない。
と。

心でするものだと。




ではまた!

 

第百七十四話 “ 初めての寄り道 ” 10-31

昨夜の事だった。
目的地の指宿にある道の駅で合流。  いつものように。  くだらない話しを。

今日が長かったKENGO君との旅路。  その最後の夜である。
でも。
特にはその事に触れない二人。
そんな事は。  言わなくてもお互いにわかっているからだ。

いつもは自分がべらべらしゃべり。  KENGO君が相槌をうったり笑ったり。
でも昨夜は。  珍しく。
KENGO君から自分に話しをしてきた。
『この旅が終わったら、恩返しをしたい』と。
自分は黙って聞いていた。
でも。
その話しを聞けて。  すごく嬉しかった。

夜中から雨が降り出した。
天気予報は本当にあてにならない。
そもそも。
天気を予測する事自体間違っているのかも知れない。

その雨は朝まで降り続け。

今なお降り続けている。
出発のタイミングを伺うも。  雨は止まない。
『行きますかぁ。』と、雨仕様の姿になり。

鹿児島港を目指した。

午後。
晴れ間も出て来た頃に。  奄美・沖縄航路のフェリーターミナルへ。

でも。
フェリーに乗るのは明日にした。
なんとなく。  KENGO君に見送られるのではなく。
東京までのまだまだ長い彼の旅を。  逆に見送りたかった。

夕方。
再び合流。
今日のKENGO君の目的地は。  この先の桜島フェリーに乗り。
降りたすぐそばにある道の駅だ。
時間もあるので。  鹿児島の街を練り歩き。

夕食を取る事にした。
最後くらい美味しいものでも食べよう!
と、そんな具合だ。
この夕食が済めば。
桜島フェリー乗り場まで一緒に歩き。  その出港を見送る事になる。
いよいよ最後だ。

ささやかながら。  ビールで乾杯♪

ふと。
自分がこれから向かう奄美大島の話になった。
その時。
KENGO君がぽろっとこう言った。
『本当は僕も奄美大島に行って何かできればなぁ~って思ってるんです"けど"時間が…。』
と、つぶやいた。
"けど"?の言葉が妙にひっかかる自分。
半分冗談。  半分本気で。
『時間がないとか言い訳するなぁ~!行きたいなら行けばいいじゃん!恩返ししたいんでしょ?』みたいな事を言った。

…。

一瞬の間の後。  彼の口から出て来た言葉に。  本当に驚いた。
『…行きます!僕も奄美大島行って…一日、二日の短い時間でも…やっぱり素通りは嫌だ!』
と、そんな事を言ったのだ。
えっ?
自分はその言葉に。  きょとん♪  としてしまった。
そして次の瞬間。  大笑いした。  つられて彼も大笑いしていた。
嬉しくて涙が出た。
それを隠すようにまた。  大笑いした。
自分は笑いながら出てくる涙をおさえながら。
『最高だ!やっぱり最高だよ♪』と笑い転げた。

これが。  毎日毎日。  寄り道もせず。  ただただひたすら。
歩き続けゴールを目指していたKENGO君の。
初めての寄り道だった。

その後。
『じゃあ、このお別れ会的な夕食はいったい…(笑)』
と、嬉しさを隠すようにおどけて見せたりした。

別々に宿を取り。
明日の夕方フェリーターミナルで待ち合わせをした。

奄美大島に何か役に立てればと。  決めたその時から。
心はすっきりしていたが、何をどうしていいのかわからなかった。
それがちよっと不安だった。
でも。  心強い仲間ができた。
そして。
KENGO君と。  この旅で出会えて。  本当によかった♪  と、そう思った。

ではまた!

 

第百七十五話 “ 手紙 ” 11-1

ぶわぁぁぁぁん!
出港の汽笛がお腹に響いた。

明日の朝には奄美大島、名瀬港に到着する。
その後の予定は何も決まっていない。
が。
利尻風に言えば。  『行き当たりバッチリ♪』
この旅で出会った1番好きな言葉だ。

この旅は。
最初からそんな旅だった。
だから最後まで。  行き当たりバッチリ♪で。

汽笛と共に。
離れて行く港を見ながら武者震いした。
いよいよだと。

しかし。
船内の乗客の多さには驚いた。
2等船室は満員御礼。
その中でも目を引くのは。  作業服に身を包んだ人達。
きっと。
奄美大島の災害復帰に向かうのだろう。
そんな中。
なんとなく気後れしてしまう自分達。
でも。
旅に出て。  一つ得たものがある。

それは"自信"だ。

それは自分を強く見せたりするものではなく。
自分を信じる勇気。
きっと何か出来る事がある。  そう心の中で信じている。

小学生の頃。
細かくは覚えていないが。  母親から手紙をもらう。
そんな授業のようなものがあった。
その手紙にはこう書かれていた。
『あなたは私のお腹を痛めずに産まれてくれた優しい子です。そのままの優しい人に育って下さい。』と。
優しさとは。  強さであり。  勇気であり。  自分を信じる心だ。
胸を張ろう!  自分は間違ってない!
と。

錦江湾を南に進んで行く船。  その船のデッキの上で。
離れていく街と。  星空を見ながら。
『よっしゃっ!いっちょやったるで~!』
と叫んでみた(笑)

ではまた!

 

第百七十六話 “ 初陣 ” 11-2

昨日はほとんど眠れなかった(笑)
KENGO君は船酔いでダウン。

自分は気持ちが高ぶり。  中々寝付けなかった。

奄美大島に着いたのは。
ようやく夜が明けようかとしている頃だった。

ふらふらの状態で奄美大島に降り立った二人。
その足で。

奄美市役所を訪ねた。

当然まだ開いていないが。  こんな貼紙を見て。

ホッと胸を撫で下ろした。
『何とかなりそうだね♪』と。

見回りに来た守衛のおじさんが。
『ありがとう!担当が来るまでもう少し待っててね!来たらすぐ教えるから!』
と。
その待ち時間。  ゆっくりしてればいいものを。
なぜか二人でそわそわと。  アキレス腱を伸ばしたり。  屈伸したり(笑)

AM8:30
守衛のおじさんから声がかかり。  市役所2階の。

災害派遣ボランティアセンターへ向かった。



書類に必要事項を記入。
自分の番号は115番だった。
すでに114人の方がここで登録をし。  何らかの形でボランティアに参加されたようだ。
聞くところによれば。  大半は島民の方のようだ。
仕事が休みの日に活動に参加されているらしい。

~話しを少し進める。

恩返しの機会が与えられた自分達は。  さっそく現場に向う事になった。
自分達に与えられた恩返しは。
床上浸水で水浸しになってしまった家具や電化製品、日用品等を。
運搬トラックに乗せる作業だった。

市役所の車に乗り込み。


さっそく現場へ。


そこは。
市役所から車で10分足らずの場所だった。
てっきり。  被害があったのは山奥の集落だけだと思っていたので。  少し驚いた。
そして。
現場で見た光景に。  水害の恐ろしさを感じた。

すべての物が。  水浸しの泥だらけ。
山積みになったたくさんの日常。

思い出さえもが一瞬で…


一つの現場が終えるとまた次へ。
そうして4ヶ所の現場の片付けをした。

移動中。
被害が酷かったとされる龍郷町。



至る所に崖崩れの後が。

行政の重機が忙しく走り回っていた。

そういえば。
初めて自分の特技が役に立った♪
以前。  日記にも書いた。  押し込み収納術♪

今日感じたのは。  人手よりも。  トラックが不足している事だった。
どこも車両が出払っていて。  荷物を積む為のトラックがない。
そうなると。
一度にいかに多く積み込むかが重要になってくる。

ここまでの長旅で。
毎日毎日。  荷物をまとめ押し込んで来た甲斐があった(笑)
トラックに荷物を積む時。  突如として荷台に上がった自分。
トラックに投げ入れられる荷物を見ていて。  居ても立っもいられなくなった。
もっと入る!と。
初日のボランティアにも関わらず。  荷台に上がり。  勝手に指示まで出してしまった…。

『次は四角いもの下さ~い!』
『隙間に入る細かいの下さ~い!』
と…。
そして。  その後から。  トラックの荷台の上が自分の定位置になってしまった(笑)
厚かましいかな?と思いつつも。  少しは役に立てていると言う実感と。
恩返しが出来ている喜びと。  素通りせずに。  この島に立ち寄ってよかった。
と。
そういう色んな充実感に満ち溢れた今日だった。

明日も。  一生懸命。  恩返し。  させていただきます!

ではまた!
 






 

第百七十七話 “ 最前線 ” 11-03

昨晩。
公園で野宿した自分達は。  こんな音楽で目を覚ました。

~新しい朝が来た♪ 希望の朝だ♪ 喜びに胸を開け♪ 青空あおげ♪~
ラジオ体操だ。

 
この曲を小学生の夏休み以来。  久しぶりに聞いた気がした。

さて。 テントを撤収し。  市役所に向かう。
AM8:00着。
……。  迎えが来ない…。
突然待ちぼうけを喰らう二人…。
昨日の現場が一緒だった北海道からボランティアに参加しているYAMADAさんが。
待ち切れずに。
市職員用の現地対策本部行きマイクロバスに三人分の席を確保。

バスに揺られる事約30分。
 

何とか対策本部までたどり着いた。



到着して。  だんだん理解してきたのだが。
どうらや昨日は。  急だった為。  市の職員の方と行動を共にさせて頂いたが。
きちんとした災害本部とボランティア受付が奄美体験交流館と言う場所にあり。
ここで受付をし。
その後。  各現場に割り当てられるようだ。

受付を済ませ。  名前が呼ばれるのを待つ。

 

今日は祝日だからか。  (たぶん)50~60人位の方が参加されていたように見えた。

~話しを少し進める~
お昼休憩の後。  再び召集を受けた。  これから二軒目の住宅へ向かう。
事前の説明でこう聞かされた。
『次に向かって頂く場所は、全く手付かずの場所です。』と。
ちょっと驚いた。
災害が起きてから約2週間。  まだ手付かずの現場が残されていた事にだ。
いったい今。
どの位の頻度でこの災害の事がニュースで流れているかはわからない。
移り変わりの早い世の中だ。
もしかしたら。  もうすでに。  "過去の話し"  になってしまったのかも知れない。

しかし。  現状は…
住用町川内。  到着したSさん宅。  中を見て。  ゾッとした。
薙ぎ倒された家具。
泥だらけの室内。


二週間放置された現場には異臭が漂う。

若い人が居るお宅なら。  少しずつでも片付けは進むだろう。
でも。
高齢のご夫婦だけのお宅は?

何とか離れの小屋を片付けそこで生活をし。
今日まで支援を待っていたのだ。
母屋は本当に手付かずだった。
というか。
手が付けられない状態である状況だった。
おじさんは足が不自由で。
おばさんは既に疲れきってしまっている様子だった。

派遣された総勢12名で。  作業にあたった。
夕方までかかり。  すべての物を外に出し。


泥だらけの床を磨き。


ゴミになってしまった日常を。  必死で分別した。



みんな泥だらけで足元はびしょびしょだ。
でも。  みんな報われた。

綺麗になった母屋を見たおばさんのその笑顔に。

明日から。  おばちゃんとおじさんに。  新しい朝は来るだろうか。  
希望の朝は。

さて。
北海道からボランティアに参加されていたYAMADAさんが。
利用していた民宿のおばちゃんに交渉してくださり。  格安の料金で部屋を借りる事が出来た。
食事付きでありえない値段だ。

おばちゃんは。
『私は現場には行けないから、ボランティアに来て下さった方をボランティアします!』
と。
なので滞在中。  おばちゃんの民宿にお世話になることにした。
今日で北海道に帰るYAMADAさんが。
自分とKENGO君に夕食をご馳走して下さった。

 
奄美名物。  鶏飯♪

こうしてまた。
YAMADAさんにも民宿のおばちゃんにも。  お世話になってしまった。
なので。  その分。  明日も。  精一杯。
恩返しをさせていただきます!


今日もありがとうございました!

ではまた!


【現在の報道状況は?】


【思いやり】


【至る所で】


【昼食休み】


【腕章】


【一輪車】


【角と剣】


【おばあさんの話し】

 

第百七十八話  “ 0地点 ” 11-04

 今朝。
昨日活動班が一緒だった島人のダイスケ君が。
『奄美の為にこんだけしてもらってるんですから!気にしないで下さい!』と。
住用町の活動本部まで自分達を乗せて行ってくれた。
今日も受付を済ませ。  せっかくなので三人同じ班に♪

今日の現場が伝達される。

住用町内Kさん宅へ。
先発隊も合わせ女性6人男性4人で。

土砂の片付け。

倒木の片付け。  家具の移動。  凸凹になった敷地の整地。
室内の清掃。  床板剥がし。

等々。
流れる汗に。  カラッとした青空の下。

通り抜ける風が気持ちよかった。

昼休み。
Kさん宅から100㍍程奥に行ってみた。
在り来りの表現で申し訳ないが。  びっくりした。
広範囲に及ぶ崖崩れ。
その下には。  車が無惨な姿で横たわっていた。

今現在も。
斜面には亀裂が入り。  二次災害の危険性が高いとの事で。
Kさんご夫婦は避難所生活を送っているという。

Kさんが。
ご自宅内の壁に着いたラインを指差した。



『ここまで水が入って来たから泳いで逃げた』…と。
えっ?  床から2㍍はある…。
その時の様子を頭に思い浮かべてみても。
はっきりとしたイメージはわかなかった。
それでも。  恐さだけはひしひしと肌に伝わってきた。
Kさんの車も流されてしまった。  とも言っていた。

夕方。
作業も終わり。  本部へ戻る車を待つ間。
奥さんがこう言っていた。

『本当にありがとう。こんなにたくさんのボランティアさんが来てくれるとは思わなかったよ。』
と。
そして。  『今日でやっと0になった。ここからだね。』と。
ハッとした。
初日の片付け。  山のようにあったゴミをトラックに載せ。
すっきりしたゴミ捨て場を見て満足していた。

昨日のおばさんのお宅。
泥だらけの室内をみんなで片付け。  綺麗になった室内を見て。
終わった~♪  と、思っていた。
しかし。
それは完全に自分の奢りだった。
被災された方にしたら。  
ここからが。  今まで通りの生活に戻る為のスタートラインなのだ。
いや。
スタートラインに向けて一歩前進しただけなのかもしれない。
これから。
気の遠くなるような時間を費やし。  近付く冬の足音を感じながら。
少しずつ。  少しずつ…  一歩一歩。

どうか。  心折れずに前に進んで欲しい。
自分みたいな人間でも。  毎日毎日。  ゆっくりでも。
諦めず前に進み続ければ。  ここまでたどり着けたのだから。

夕方。
昨日ボランティア班が一緒だった東京から移住されてきた島のお医者さん。
SANOさんが。  自分達を夕食に招いて下さった。

『私の妻もボランティアに参加したい気持ちはあるけど、身重な体で。
だからその分!』
と。
最初にSANOさんにあった時。  
てっきり奄美の方だと。  そう思っていた。
自分にそう思わせたのは島への熱い気持ちからだった。
災害直後から不眠不休で医療に従事し。
昨日。  
やっと一段落し手が空いたので。 
現場のボランティアに参加されたと言う。

SANOさんは言った。
『自分がそう言う思いになれたのはこれまで島の方達に親切にしてもらったからです!』と。

自分は思った。
たぶんたくさんの方が。  こういう災害時に何か自分も!  
"でも…"  時間もないし…  何をしていいのか…  
と、思っていると思う。
しかし。
自分は直接ボランティアに参加しなくても。  できる事があると知った。
遠く離れた場所でも。  全くその災害に関係のない。
何も起きていない時でも。  ふとした優しさや親切が。  巡り巡って。
いつしか形になるのだと。

今日の夜。
KENGO君は鹿児島に戻って行く。
ダイスケ君とSANOさんも一緒に見送りに来て下さった。

一人じゃなくてよかった(笑)
一人で見送りはちょっときつかったかもしれないから。

春に沖縄を出発した時。  オッキーがお守りをくれた。
すっかり汚れてしまったが。  ずっと自分を守ってくれていた。

『神様お願いします!もう少しだけ、彼の旅もよろしくお願いします!』
そう心に願い。  
こっそり彼の。  パンパンに膨れ上がったバックパックに結び付けた。

離れて行く船。
ふと見ると。  見送りの方と旅立つが。  虹で繋がっていた。

利尻島を思い出した。
あの時も思った。
この紙テープはいずれ切れてしまう。
けど。
心の繋がりは決して切れないと。

KENGO君!  今までありがとう!

ではまた!

 

■Extra

【Kさんからの差し入れ】


【消毒は忘れずに】


【力】


【大忙し】


【IドキドキAMAMI】

 

  
  

 

第百七十九話 “ バス停 ” 11-05

 

今日からは一人だ。
バスで住用のボランティアセンターまで行く事にした。

北海道のYAMADAさんが言っていた。
最初は自費でバスに乗り本部まで行っていたと。
片道800円くらいだ…。

そこで。  YAMADAさんが行政に掛け合い。
まぁ自転車はあるが…
自分達のような交通手段がない人の為に移動手段を確保してくれた。
またその申し出を快く受けてくれた地元バス会社さんに感謝だ。


【こんな高さまで泥が…】

 

今日は住用の託児所に向かった。

その時。  子供達は泣かなかっただろうか。
でも本当に無事でよかった。


【遊び相手のいない遊具】


【困ったゾウ】


【ホッ♪】
 

帰りに宿まで送ってくださったFさんが。  こんな事を言っていた。
災害直後。
何もすることが出来ずに…。  でも今ここにいると『ホッとするよ』と。
自分にも出来る事があったと。


【何かTAISAKUは?】

平成2年  台風19号  水位。  ?
水害は初めてじゃない?
水位の高さは自分の肩近くまである。
子供達なら確実に背丈を越える水位だ。
その後どんな対策をしたのだろうか…。

【すみませ~ん♪手空いてますかぁ~?】


【10月31日一面】


【おばちゃんいつもありがとう!】

宿に戻ると洗濯物がたたんであった。
宿のおばちゃんにはお世話になりっぱなしだ。
恩返しをいくらしてもしきれない。
だから明日も恩返しさせていただきます!

今日もありがとうございました!

ではまた!

第百八十話 “ 一番の恩返し ” 11-06~07

本当によかった。

この島に来て。

災害があった事は残念な事だ。
でも。  この島には。  
大きな悲しみを上回る程の。  人と人との絆があり。
優しさが溢れている。
それを肌で感じ目の当たりに出来た事が。
本当によかった。

自分は恩返しにやって来たのに。  返す恩は増すばかりだ。
ボランティアで駆け付けたお宅を片付けて。
『ありがとう。本当にありがとう。』と。
疲れた表情の中に精一杯の笑顔を見せてくれる島の人。
そんな笑顔を見て。
『よし!明日も頑張るぞ!』と。
自分が逆に元気をもらっている事に気付く。

旅の前半。
自分が受けたその途方もなくたくさんの優しさ親切に対して。
どうすればいいのかわからなくなり。
モヤモヤしていた時。

『君がそうやって旅している姿を見て元気をもらえた!だからそれで50:50だよ!』
また。  その優しさに恐縮し。  お礼ばかり言っている自分に一言。
『give and takeだ。』
と言ってくれた人。


その時はその気持ちを。  全て理解する事はできなかった。
でも。
今は少しその気持ちがわかる気がする。
人と人は支え合って生きているんだなぁ~。
と。

今日で。
住用町に置かれた災害ボランティアセンターは閉じられた。
明日からは。
各ボランティア団体が現場に入ると話しに聞いた。

一般のボランティアの参加は今日が最後だった。
決して全てが元通りになったわけではないが。

やるべき事はまだ山のようにある。
ただ。  一つの区切りではある。

一週間足らずの短い期間ではあった。
でも。  充実した毎日だった。
今、心の中が満たされている。

どうやら。  旅を終える日が近いようだ。

日本海を下り。  九州入りした時のような。
旅への未練や執着心は無くなった。
何がどうとかこうとかではない。 この旅を終える心の準備が整った。
と、そう感じる。

結局。  恩返しなど一つもできなかった。
でもそれでいいのかも知れない。
もちろん簡単に返せる恩ではない。
でも。
一番の恩返しがわかった。

それは。  これからずっと。
今のこの気持ちを持ち続ける事にある。
と。
それに気付けた。

だから。  ようやく。  旅を終える心の準備が整ったのだろうと。
そう思った。

ではまた!

第百八十二話 “ 流れ星 ” 11-09

AM3:30。
けたたましく目覚ましのアラームが鳴る。
どうやら。  なかなか寝付けなかったが。  いつの間にか眠りについていたようだ。
海風荘のおばちゃんを起こさないように。  そっと静かに宿を出た。
まだ真っ暗な外は風が強かった。

名瀬港に向かう。
沖縄行きのチケットを購入し。
今度は自転車の手続きを済ます。
そうこうしている内に。
鹿児島から出発したフェリーが港に到着した。

この船に揺られて約300㌔離れた沖縄へ向かうのだ。
 約12時間の船旅になる。
船から名瀬港行きの積み荷が下ろされ。  貨物の搬入が始まる。
しばらく待つ。
係の人からGOサインが出た。
自転車を押して船に乗り込む。
ひとまず寝床を確保し。

フェリー内をフラフラとしてみる。

出港3分前。
~間もなく出港致しますのでお見送りのお客様は~
そんなアナウンスが聞こえてきた。

その時電話が鳴った。
ダイスケ君だ。
『今港に着きました!!』  えっ?
一番上のデッキでウロウロしていた自分は。  慌てて港を見渡す。
見当たらない。
もしかして!と思い急いで搭乗口に向かう。
すると。

船員さんに早く出ないと出港しちゃいますよ!と急かされている人がいる。
ダイスケ君!
自分の姿を見た彼は。  『よかった~よかった~』と。
自分は『ありがとう!』とダイスケ君の肩を力いっぱい叩いた。

10秒にも満たない出港直前のギリギリの再会だった。

でも。  すごく心に残る10秒間だった。
普段の何気ない生活の中での10秒と。  この10秒は。  同じ10秒ではない。
一生忘れない10秒間だけの再会だった。

ダイスケ君が船から降りた直後に。  フェリーは港から出港した。
再び屋上のデッキに駆け上がる。
暗くて良く見えないが。  港にダイスケ君らしき姿が見えた。

離れて行く港。
ダイスケ君と奄美大島が見えなくなるまで手を振った。

数日前。
SANOさんが招いて下さった食事の席で。  ダイスケ君が。
自分はすごい人見知りで…。
ちょっと対人恐怖症だった時期もあったんです。

と話してくれた。
そんな人見知りの彼が。  困っている人の為に何かしたい!
と。
見ず知らずの人が大勢集まるボランティアに。
勇気を出して一人で参加していた。
そんな時に自分達は出会った。

ある時。
ダイスケ君が。  自分に夢を語ってくれた。
その夢は。  すごく彼らしい素敵な夢だった。

夢は誰かに話す事で。  向こうから一歩一歩近付いてくる。
と、自分はそう信じている。
自分は彼の夢を聞けた事で。
その夢が現実のものとなる日を待つ楽しみができた。

こんな話をどこかで聞いたことがある。
子供が素朴な疑問を学者に質問する。
そんな企画のラジオかテレビ番組での話だ。
ある子供が。
『流れ星に三回願いを言うと本当に叶うんですか?』
と、質問した。
天文学者はこう答えた。  『はい。叶います。』と。
そして続けてこう言った。
『いつ流れるかも分からない流れ星に3回も願いを言えるのなら、あなたはその願いをいつも強く心に思ったり、そのことを毎日考えていると言う事です。そう言う願いは必ず実現します。』
と。

旅人が流れ星だとしよう。
その旅人に自分の夢をしっかり話せるなら。  その夢は必ず。
必ず実現するだろう。

太陽も高く登り。

北風に押され。
グングン南下していく。

 

徳之島  沖永良部島  与論島  と。
沖縄はもうすぐそこだ。
しかし。
不思議な程落ち着いている自分がいる。

実は。  自分の中で。  旅とのお別れは既に済ませてあった。
鹿児島港を出港したその時にだ。

明日。
自分はこの旅の最終地点シーナサーフに到着する。
でもそこはゴールではない。
これから先の。  
新しい未来への。

スタートラインだ。

 

晴れ渡る空の。  輝く太陽に。  手をかざしてみた。
そしたら。  手の平に。  その温かさを感じた。

"僕らはみんな生きている"  そして生かされていると。
そう感じた。

ではまた!

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