第百八十二話 “ 流れ星 ” 11-09

AM3:30。
けたたましく目覚ましのアラームが鳴る。
どうやら。  なかなか寝付けなかったが。  いつの間にか眠りについていたようだ。
海風荘のおばちゃんを起こさないように。  そっと静かに宿を出た。
まだ真っ暗な外は風が強かった。

名瀬港に向かう。
沖縄行きのチケットを購入し。
今度は自転車の手続きを済ます。
そうこうしている内に。
鹿児島から出発したフェリーが港に到着した。

この船に揺られて約300㌔離れた沖縄へ向かうのだ。
 約12時間の船旅になる。
船から名瀬港行きの積み荷が下ろされ。  貨物の搬入が始まる。
しばらく待つ。
係の人からGOサインが出た。
自転車を押して船に乗り込む。
ひとまず寝床を確保し。

フェリー内をフラフラとしてみる。

出港3分前。
~間もなく出港致しますのでお見送りのお客様は~
そんなアナウンスが聞こえてきた。

その時電話が鳴った。
ダイスケ君だ。
『今港に着きました!!』  えっ?
一番上のデッキでウロウロしていた自分は。  慌てて港を見渡す。
見当たらない。
もしかして!と思い急いで搭乗口に向かう。
すると。

船員さんに早く出ないと出港しちゃいますよ!と急かされている人がいる。
ダイスケ君!
自分の姿を見た彼は。  『よかった~よかった~』と。
自分は『ありがとう!』とダイスケ君の肩を力いっぱい叩いた。

10秒にも満たない出港直前のギリギリの再会だった。

でも。  すごく心に残る10秒間だった。
普段の何気ない生活の中での10秒と。  この10秒は。  同じ10秒ではない。
一生忘れない10秒間だけの再会だった。

ダイスケ君が船から降りた直後に。  フェリーは港から出港した。
再び屋上のデッキに駆け上がる。
暗くて良く見えないが。  港にダイスケ君らしき姿が見えた。

離れて行く港。
ダイスケ君と奄美大島が見えなくなるまで手を振った。

数日前。
SANOさんが招いて下さった食事の席で。  ダイスケ君が。
自分はすごい人見知りで…。
ちょっと対人恐怖症だった時期もあったんです。

と話してくれた。
そんな人見知りの彼が。  困っている人の為に何かしたい!
と。
見ず知らずの人が大勢集まるボランティアに。
勇気を出して一人で参加していた。
そんな時に自分達は出会った。

ある時。
ダイスケ君が。  自分に夢を語ってくれた。
その夢は。  すごく彼らしい素敵な夢だった。

夢は誰かに話す事で。  向こうから一歩一歩近付いてくる。
と、自分はそう信じている。
自分は彼の夢を聞けた事で。
その夢が現実のものとなる日を待つ楽しみができた。

こんな話をどこかで聞いたことがある。
子供が素朴な疑問を学者に質問する。
そんな企画のラジオかテレビ番組での話だ。
ある子供が。
『流れ星に三回願いを言うと本当に叶うんですか?』
と、質問した。
天文学者はこう答えた。  『はい。叶います。』と。
そして続けてこう言った。
『いつ流れるかも分からない流れ星に3回も願いを言えるのなら、あなたはその願いをいつも強く心に思ったり、そのことを毎日考えていると言う事です。そう言う願いは必ず実現します。』
と。

旅人が流れ星だとしよう。
その旅人に自分の夢をしっかり話せるなら。  その夢は必ず。
必ず実現するだろう。

太陽も高く登り。

北風に押され。
グングン南下していく。

 

徳之島  沖永良部島  与論島  と。
沖縄はもうすぐそこだ。
しかし。
不思議な程落ち着いている自分がいる。

実は。  自分の中で。  旅とのお別れは既に済ませてあった。
鹿児島港を出港したその時にだ。

明日。
自分はこの旅の最終地点シーナサーフに到着する。
でもそこはゴールではない。
これから先の。  
新しい未来への。

スタートラインだ。

 

晴れ渡る空の。  輝く太陽に。  手をかざしてみた。
そしたら。  手の平に。  その温かさを感じた。

"僕らはみんな生きている"  そして生かされていると。
そう感じた。

ではまた!