第百七十四話 “ 初めての寄り道 ” 10-31

昨夜の事だった。
目的地の指宿にある道の駅で合流。  いつものように。  くだらない話しを。

今日が長かったKENGO君との旅路。  その最後の夜である。
でも。
特にはその事に触れない二人。
そんな事は。  言わなくてもお互いにわかっているからだ。

いつもは自分がべらべらしゃべり。  KENGO君が相槌をうったり笑ったり。
でも昨夜は。  珍しく。
KENGO君から自分に話しをしてきた。
『この旅が終わったら、恩返しをしたい』と。
自分は黙って聞いていた。
でも。
その話しを聞けて。  すごく嬉しかった。

夜中から雨が降り出した。
天気予報は本当にあてにならない。
そもそも。
天気を予測する事自体間違っているのかも知れない。

その雨は朝まで降り続け。

今なお降り続けている。
出発のタイミングを伺うも。  雨は止まない。
『行きますかぁ。』と、雨仕様の姿になり。

鹿児島港を目指した。

午後。
晴れ間も出て来た頃に。  奄美・沖縄航路のフェリーターミナルへ。

でも。
フェリーに乗るのは明日にした。
なんとなく。  KENGO君に見送られるのではなく。
東京までのまだまだ長い彼の旅を。  逆に見送りたかった。

夕方。
再び合流。
今日のKENGO君の目的地は。  この先の桜島フェリーに乗り。
降りたすぐそばにある道の駅だ。
時間もあるので。  鹿児島の街を練り歩き。

夕食を取る事にした。
最後くらい美味しいものでも食べよう!
と、そんな具合だ。
この夕食が済めば。
桜島フェリー乗り場まで一緒に歩き。  その出港を見送る事になる。
いよいよ最後だ。

ささやかながら。  ビールで乾杯♪

ふと。
自分がこれから向かう奄美大島の話になった。
その時。
KENGO君がぽろっとこう言った。
『本当は僕も奄美大島に行って何かできればなぁ~って思ってるんです"けど"時間が…。』
と、つぶやいた。
"けど"?の言葉が妙にひっかかる自分。
半分冗談。  半分本気で。
『時間がないとか言い訳するなぁ~!行きたいなら行けばいいじゃん!恩返ししたいんでしょ?』みたいな事を言った。

…。

一瞬の間の後。  彼の口から出て来た言葉に。  本当に驚いた。
『…行きます!僕も奄美大島行って…一日、二日の短い時間でも…やっぱり素通りは嫌だ!』
と、そんな事を言ったのだ。
えっ?
自分はその言葉に。  きょとん♪  としてしまった。
そして次の瞬間。  大笑いした。  つられて彼も大笑いしていた。
嬉しくて涙が出た。
それを隠すようにまた。  大笑いした。
自分は笑いながら出てくる涙をおさえながら。
『最高だ!やっぱり最高だよ♪』と笑い転げた。

これが。  毎日毎日。  寄り道もせず。  ただただひたすら。
歩き続けゴールを目指していたKENGO君の。
初めての寄り道だった。

その後。
『じゃあ、このお別れ会的な夕食はいったい…(笑)』
と、嬉しさを隠すようにおどけて見せたりした。

別々に宿を取り。
明日の夕方フェリーターミナルで待ち合わせをした。

奄美大島に何か役に立てればと。  決めたその時から。
心はすっきりしていたが、何をどうしていいのかわからなかった。
それがちよっと不安だった。
でも。  心強い仲間ができた。
そして。
KENGO君と。  この旅で出会えて。  本当によかった♪  と、そう思った。

ではまた!